楽天の優勝と嶋選手の震災後のスピーチ
この(2013年)9月26日(木)の対西武戦で,楽天イーグルスが勝利し,パ・リーグ初優勝を決めた.なんと2位ロッテに8.5ゲームの差をつけた,ブッチギリの優勝であった.チーム創立以来,9年目の優勝である.

優勝当日はテレビ中継があったので,7回ぐらいから試合を見ることができた.最終回の田中選手の投球は凄まじいものであった.一死二,三塁の後の2人のバッターに対する連続8つの直球,いずれも時速150kmを超えるもので,田中投手の気迫がそのまま乗り移っているようであった.特に最後の球は,外角低めで空振りを誘った.この気迫の投球,球史に残るものではないか.

楽天の優勝はもちろんのことファンとしては大変嬉しいのであるが,こんなに早く優勝していいのか,などとも思ってしまう.9年前,お荷物球団として登場して以来,Aクラス入りがたった1回(2009年2位)のチームが,今年はダントツの優勝なのである.もっとも,昨年のパ・リーグ優勝チームである日本ハムファイターズが今年は最下位であるので,プロ野球の世界ではおかしくないのかもしれないのだが.

優勝をもたらした要因についてはいろいろな分析がなされている.よく言われのが,第2代監督の野村監督の功績である.選手に考える野球をしっかりと植え付けた.楽天でホームランバッターとして長く活躍し,今年ユニフォームを脱いだ山崎武司選手の復活が良い例であろう.山崎選手自身が,そのような感想をもらしていたのを聞いたことがある.

野村監督の後を継いだ第3代監督は,1年間だけのブラウン監督だった.第4代監督が現在の星野監督である.今年3年目であるが,昨年秋の補強では,右打者で4番と5番を任せられる新外国人選手2名の獲得が最優先課題であったという.この方針は,昨年の試合の綿密な分析結果に基づく結果だと言われている.入団したジョーンズとマギーの2選手は,今年期待に違わない活躍をした.

そして何よりも,田中投手の開幕以来の一つも負けることのないピッチングである.現在(10月上旬),開幕以来23連勝で,日本記録を更新中である.田中投手が投げれば勝つことは,もう誰もが確信している.もっとも,周囲の選手には大きなプレッシャーであることは想像に難くない.実際,田中投手は金曜日に投げることが多いのだが,土曜日の楽天の勝率が悪いのだそうだ.土曜日は,思わず知らず,多くの選手から緊張感がなくなるのかもしれない.

さて,9月26日の優勝以来,多くの観点からの報道がなされたが,震災復興と絡めた報道もたくさんあった.そのようなものの一つに,2011年の選手会長であった嶋基宏選手(捕手)の,震災後のあの名スピーチに関するものがあった.

9月27日の朝日新聞のスポーツ欄の記事に,嶋選手のスピーチに関する次のようなエピソードが紹介されていた.

「それ(震災)から約1カ月後の4月2日,プロ野球は各地で復興支援試合を行った.前日の夕方,プロ野球を統括する日本野球機構から,各球団の選手会長に試合前のあいさつ用の原稿が届いた」.

この原稿に当時の楽天球団の広報担当である岩城亮さんは違和感を覚えたのだという.「『被災地,頑張れ』という内容.他人の目線だった.被災地の球団としては読めるものではなかった」.

嶋選手も同じ思いで,2人で話し合い,独自の原稿を作った.それがあの名スピーチ,「今,野球の真価が問われている.見せましょう,野球の底力を.見せましょう,野球選手の底力を.見せましょう,野球ファンの底力を」となったのだという.

嶋選手のスピーチは,4月29日に行われた地元初試合の終了後にも行われている.このときのスピーチを,9月28日の毎日新聞社説で取り上げていた.

「地元での開幕戦は4月29日.試合後,嶋基宏選手が記憶に残るスピーチをした.(段落)『東北の皆さん,絶対に乗り越えましょう,この時を.絶対に勝ち抜きましょう,この時を.今,この時を乗り越えた向こう側には,強くなった自分と明るい未来が待っているはずです.絶対に見せましょう,東北の底力を』と.」

この2つのスピーチ,インターネットで検索すると,きちんとアーカイブされていた.サイトは『楽天グリーンスポーツ』である.このサイト,「楽天イーグルスのニュース,試合日程,試合結果,ブログ,グッズなどの情報サイト」と銘打たれていた.

このサイトには著作権について何の記載もないので,私自身の記憶のためにも,ここに全文を掲載しておきたい.2つともサイトの原文のままで引用する.

1.札幌ドーム慈善試合での試合前のスピーチ全文(2011年4月2日)

あの大災害,本当にあったことなのか…,いまでも信じられません.僕たちの本拠地であり,住んでいる仙台,東北が,今回の地震,津波によって大きな被害を受けました.地震が起きたとき,僕らは兵庫で試合をしていました.家がある仙台にはもう1カ月も帰れず,横浜,名古屋,神戸,博多,そしてこの札幌など全国各地を転々としています.

先日,私たちが神戸で募金活動をしたときに「前は私たちが助けられたから,今度は私たちが助ける」と声をかけてくださった方がいました.今,日本中が東北をはじめとして,震災に合われた方を応援し,みんなで支え合おうとしています.

地震が起きてから,眠れない夜を過ごしましたが,選手みんなで「自分たちに何ができるか?」,「自分たちは何をすべきか?」を議論し,考え抜きました.

今,スポーツの域を超えた野球の真価が問われています.

見せましょう,野球の底力を.
見せましょう,野球選手の底力を.
見せましょう,野球ファンの底力を.

共に頑張ろう,東北!
支え合おう,ニッポン!!

2.Kスタ宮城開幕戦での試合後のスピーチ全文(2011年4月29日)

本日は,このような状況の中,Kスタ宮城に足を運んでいただき,またテレビ,ラジオを通じてご覧いただき,誠にありがとうございます.この球場に来る事が簡単ではなかった方,ここに来たくても来られなかった方も大勢いらっしゃったかと思います….

地震が起こった時,僕たちは兵庫県にいました.遠方の地から家族ともなかなか連絡が取れず,不安な気持ちを抱きながら全国各地を転戦していました.報道を通じて被害状況が明らかになっていくにつれて,僕たちもどんどん暗くなっていきました.

その時の事を考えると,今日,ここKスタ宮城で試合を開催できた事が信じられません….震災後,選手みんなで「自分たちに何ができるか?」,「自分たちは何をすべきか?」を議論して,考え抜き,東北の地に戻れる日を待ち続けました.

そして開幕5日前,選手みんなで初めて仙台に戻ってきました.変わり果てたこの東北の地を「目」と「心」にしっかりと刻み,「遅れて申し訳ない」と言う気持ちで避難所を訪問したところ,皆さんから「おかえりなさい」,「私たちも負けないから頑張ってね」と声を掛けていただき,涙を流しました.その時に何のために僕たちは闘うのか,ハッキリしました.この1カ月半で分かった事があります.それは,「誰かのために闘う人間は強い」と言う事です.

東北の皆さん,絶対に乗り越えましょう.今,この時を.
絶対に勝ち抜きましょう,この時を.
今,この時を乗り越えた向こう側には,強くなった自分と,明るい未来が待っているはずです.
絶対に見せましょう,東北の底力を.

本日はありがとうございました.


2013年10月10日記


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