日焼け止め剤の功罪
日本のメディアでも今月(2018年7月)上旬,米国ハワイ州のデイビット・イゲ知事が,5月に議会で可決していたサンゴ礁に有害な影響を与える日焼け止め剤の販売を禁止する法案に署名したことが報じられた.「オキシベンゾン」と「オクチノキサート」の2つの化学物質を含む日焼け止め剤の,州内での販売を禁止する法案である.ただし,医師が処方した場合や,州外からの持ち込みは許されるという.この法律は,2021年1月1日に発行する.

以下,I. VesperによるNatureの2017年2月3日号の記事からの情報である.記事は「Hawaii seeks to ban ‘reef-unfriendly’ sunscreen: A proposed Hawaiian bill aims to stop the sale of lotions containing UV-filters, but their effects on coral are disputed」と題するもので,日焼け止め剤がサンゴに影響を与えるとする研究を紹介している.米国の研究チームは,室内実験によりこれら2つの化学物質がサンゴの幼生の発育を阻害したり,ある種のサンゴには‘毒’として作用したりすることを2016年に報告した.2008年には別のチームが,オキシベンゾンはサンゴの白化の原因となりそうであることを室内実験と熱帯のいくつかの海域での現場観察から指摘した.また,別のチームは,オキシベンゾンはエビや貝などには内分秘攪乱化学物質(いわゆる環境ホルモン)として働くのではないかとの指摘をしていたという.

さて,多くの環境保護団体がこの法案を支持している一方で,この法案に反対する人たちもいる.日焼け止め剤を製造販売している会社は当然のこととして,ハワイ医療協会も反対の立場であるという.日焼け止め剤が皮膚がんを予防する効果をもつという研究結果が数多くあるのだそうだ.それに比べて,日焼け止め剤のサンゴに対する影響の研究は少ないではないかとの主張である.

日本では日焼け止め剤をどのように受け止めているのだろう.私自身は日中に行われた楽天イーグルスの野球観戦に行ったときに1度使用したくらいで,日常的には全く使用していない.検索エンジンGoogleで「日焼け止め剤」と「皮膚がん」を入れて検索したところ,なんと265万件もヒットした.見て驚いたのだが,「日焼け止め,その強力な毒性…皮膚がんの恐れ」や「市販日焼け止めに発ガン性リスクあり?」などと,日焼け止め剤こそが皮膚がんを起こすなどとの記事が多数あるのである.もちろん,日焼けは皮膚がんの原因となるので日焼け止め剤を用いることを推奨している専門医の記事もあった.私自身は一度日焼けをすると長い間痕跡が残ってしまうほうなので,できるだけ日焼けはしたくない.日焼け止め剤を用いないとすれば,長袖のシャツに手袋や帽子,そしてサングラスと,化学物質に頼らず物理的に日焼けを阻止する方策が良さそうである.


2018年7月20日記


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