本庶先生からのメッセージ
10月1日(月)の夕方,スウェーデンのカロリンスカ研究所は,2018年ノーベル医学生理学賞を京都大学特別教授の本庶佑(ほんじょ たすく)先生に授与すると発表した.外科手術,放射線照射,抗がん剤投与に続く,「免疫療法」と呼ばれる4番目のがん治療法を確立した功績が認められたものである.先生は,免疫の働きを抑制するたんぱく質(PD-1)を発見し,さらにがん細胞が出すこのたんぱく質の機能を抑える薬(製品名オプジーボ)を製薬会社とともに開発した.この薬は4人に1人の割合でがんを劇的に小さくする効き目があるという.人間が本来持っている免疫を活かすという,がん治療の発想を変えたこの方法は,今後治療の一つの柱になるのではないか期待されている.

日本人のノーベル賞受賞者は,本庶先生で26人目(米国籍も含む).翌2日の新聞各紙は本庶先生の受賞記事で賑わった.先生の生い立ちや学生時代のこと,家庭での様子や趣味まで,研究以外のことでも詳しく報じている.先生は多くのお弟子さんを育てたようで,彼らに向けたメッセージも紹介された.また,記者会見では,我が国における現在の研究のあり方や,未来を託す子供たちへのメッセージも披露した.

毎日新聞は1日夜に行われた共同記者会見の後に単独記者会見を行い,本庶先生の座右の銘は「有志竟成(ゆうしきょうせい)」であることを知り,2日の朝刊でこれを紹介した.この言葉は紀元1世紀に後漢の初代皇帝となった光武帝の言葉と「後漢書」に記されているという.「志有る者は事竟に成る」とも読み,「強い志を持てば,目的は必ず達成できる」という意味である.同じ日の読売新聞電子版では,数え年で喜寿になる今年1月の誕生日に開いたパーティで,先生自身が「有志竟成」と揮毫した色紙を参加者に配ったと報じた.

本庶先生は,優れた研究者には6つの「C」が必要だと説いてきたという.6つのCとは,「challenge(挑戦)」,「confidence(自信)」,「courage(勇気)」,「concentration(集中)」,「curiosity(好奇心)」,「continuation(継続)」のことである.これらは研究者であれば,誰でも納得できる姿勢である.その他にも多くの印象に残る数多くの言葉が先生から発信された.「ダイヤモンドの原石を拾って,光らせる仕事をしなさい.輝く前の石ころを見つけることに,研究の醍醐味がある」.「科学は多数決ではない.既存の概念を壊す少数派の中からこそ新しい成果が生まれる」.「実験というのは失敗が当たり前で,1回1回のことでめげていたらだめ.物事に不可能はない.」.そして小中学生に対しては,「重要なのは知りたい,不思議だと思う心を大切にすること.教科書に書いてあることを信じない.あきらめない.そういう小中学生が研究の道を志してほしい」とエールを送る.どれもが素晴らしいメッセージである.


2018年10月20日記


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