IPCCレポート−1.5℃の地球温暖化−
韓国の仁川で開催されたIPCC(気候変動に関する政府間パネル)第48次総会最終日の10月6日(土)に,通称「1.5℃特別報告書」を承認した.本報告書の正式名称は,「1.5℃の地球温暖化:気候変動の脅威への世界的な対応の強化,持続可能な開発及び貧困撲滅への努力の文脈における,工業化以前の水準から1.5℃の地球温暖化による影響及び関連する地球全体での温室効果ガス排出経路に関するIPCC特別報告書」と長いものである.私なりにまとめれば,本報告書は気候変動枠組条約締約国会議(COP)などで議論されている温室効果ガス(GHG)の削減案よりもさらに前倒しで削減することにより,産業革命以前の気温から1.5℃以内の上昇に抑えれば,これまでの目標である2℃よりもはるかに環境に対し負の影響を少なくすることができるとし,その達成を強く訴えたものである.

2015年11月から12月にパリで開催されたCOP21で採択された協定(通称パリ協定)の中で,2℃以内に抑えることが目標としたが,島嶼国からの強い要望があり,1.5℃を努力目標とすることが盛り込まれた.COP21では同時に,IPCCに対し1.5℃の地球温暖化の影響と実現のためのGHG排出経路に関する報告書を,2018年までにまとめることを要請していた.IPCCは2016年4月にこれを受諾し,世界40か国から91名の研究者の参加を得てまとめたのが本報告書である.参加者は,A:1.5℃の地球温暖化の理解,B:予測される気候変動,潜在的な影響及び関連するリスク,C:1.5℃の地球温暖化に整合する排出経路とシステムの移行,D:持続可能な開発及び貧困撲滅への努力の文脈における世界的な対応の強化,の5グループに分かれて見解をまとめた.

主な見解を挙げる.産業革命以前より既に1℃の気温上昇があった.現在までのGHG排出量では1.5℃の上昇には達しない.1.5℃と2℃の上昇では影響に大きく明瞭な差がある.水位は1.5℃が2℃よりも10cmは低い上昇で済む(以上A),生態系が受ける影響は軽減される.海洋酸性度の上昇も海水の酸素濃度の低下も抑えられる.気候関連の食糧の安全保障などのリスクは,1.5℃でも現在よりは上昇するが2℃ではさらに上昇する(B),1.5℃に抑えるには2030年までに2010年よりも45%減とし,2050年前後には正味ゼロにすることに加え,二酸化炭素除去技術で数百ギガトン減少させる必要がある(C).そして,国際協力は,開発途上国及び脆弱な地域のための,重大な成功要因である,とする(D).

なお,IPCCのウェブサイトで,今回承認された「政策決定者向け要約(Summary for Policymakers:SPM)」(33ページ)や,報告書全文の案を見ることができる.また,環境省のウェブサイトでは,日本語のSPM概要(仮訳)を読むことができるので,参照されたい.


2018年11月20日記


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