エルニーニョ発生
気象庁は,11月9日に「エルニーニョ現象が発生したとみられる」と,「今後春にかけてエルニーニョ現象が続く可能性が高い(70%)」とする「エルニーニョ監視速報」(No. 314)を公表した.さらに今月10日には,「エルニーニョ現象が続いているとみられる」と,「今後春にかけてエルニーニョ現象が続く可能性が高い(80%)」と公表した(No. 315).米国海洋大気庁(NOAA)の国立気象サービス(NWS)気候予測センター(CPC)も11月8日(現地時間)に,「この秋から冬にかけてエルニーニョは80%の確率で発生し,来年の春も55〜60%の確率で継続するだろう」と公表していた.太平洋赤道域には「エルニーニョ監視網」と呼ばれる種々の手法による計測システムが構築されており,世界中の気象・海洋機関や研究者にリアルタイムに公表されているので,エルニーニョの発生や終息に関する見解が大きく異なることはない.

さて,気象庁の速報で,発生したと断言していないのは,その定義のせいである.気象庁のエルニーニョの定義は,監視域(緯度南北5度,経度西経90度から150度)の海面水温の基準値からの偏差の5か月移動平均値(NINO3 指数と呼ぶ)が,0.5℃高い状態が連続して6か月以上続いたときである.しかし,この定義に厳密に従うと,エルニーニョが実際に発生してからしばらく経たないと発生したと断言できないことになる.そこで,偏差が1か月でも0.5℃を超せば,他の要素の時間変動や数値モデルの予想の結果も踏まえて,その時点で「発生したとみられる」との表現で公表している.

これまでの統計的な研究から,春以外に発生するエルニーニョは,春に発生するエルニーニョに比べて,規模が小さいことが知られている.前回の2014年夏から2016年春のエルニーニョはスーパーエルニーニョと表現されたが,5か月移動平均を取る前のNINO3指数は,2015年春以前に0.5℃を2回ほど下回っている.意見の分かれるところであるが,2015年春に発生したエルニーニョであると理解したほうがいいと私は思っている.すなわち,春発生型エルニーニョとみなせば,これまでの知見と整合的である.ともあれ,今回のエルニーニョは,今後大きく発達することにはならないのではなかろうか.

日本のこの冬の天候は,中・高緯度独自の変動とともに,エルニーニョに対する大気の応答にも大きくかかっている.エルニーニョ時の東日本の冬は,高い確率で暖冬となるが,大気の応答はエルニーニョごとに異なり,かつ,複雑である.大気の定在波動であるテレコネクションパターンも,WP(西太平洋),PNA(太平洋−北米),TNH(熱帯−北半球)がエルニーニョと関連していることが分かっている.しかし,どのパターンが励起されるのかはまだ分かっておらず,今後の重要な研究課題である.


2018年12月20日記


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