相次いで巨星墜つ
先月(2019年2月)12日,日本海洋学会のメーリングリストで,海洋物理学者のW. H. Munk(ムンク)博士が8日に101歳で亡くなられた事を知った.そして20日の毎日新聞で,地球化学者のW. Broecker(ブロッカー)博士が,18日に87歳で亡くなられた事を知った.海洋学の巨星二人が相次いで亡くなられた事を知り,私は茫然としてしまった.

アメリカの大学広報はとてもしっかりしている,ムンク博士は8日付で,ブロッカー博士は19日付で,追悼記事が大学ウェブサイトに掲載された(末尾にURLを記す).どちらもサイエンスライターの署名入りである.ムンク博士の記事は,「世界的名声を誇る海洋学者,尊敬を集めた科学者−科学の一分野を定め,自然の理解を一変させた伝説のスクリプスの海洋学者−」の題で,私のプリンターで印刷すれば6ページにも及ぶ長文のものであった.ブロッカー博士の記事も,「気候変化の預言者−大気と海洋の世界的探検家,1931-2019」という題で,4枚の写真と1枚の図を含む9ページにも及ぶものであった.1枚の図とは,そう「ブロッカーのコンベヤーベルト」である.どちらの記事も読み応えがあり,多くの情報をこれらの記事から得ることができた.

ムンク博士はほぼ10年ごとに研究テーマを変えて,それぞれで卓抜した業績を残してきた.ニューヨークタイムズもムンク博士の死亡記事を9日に掲載しているが,これに関する記述があった.ムンク博士は生前こんなことを言っていたという.「私は道楽半分に研究をしてきた.大した学者ではない.読むのが嫌いでね.私は,出版物が何も無く,結局自分自身で理解しないといけない分野で仕事をしたいんだ」と.私はムンク博士とは1990年にスクリプス海洋研究所でご挨拶する機会があった.ブロッカー博士とは,1984年11月にイタリアのヴェネツィアで20名ほどが参加した表層水塊に関するワークショップで,ご一緒したことがある.

両博士のように,次々と研究テーマを変え幅広い領域で超一流の仕事を行うような研究者は,海洋学もだんだんと成熟してきたこともあり,今後現れないのではなかろうか.お二人の海洋学への偉大な貢献に改めて敬意を表したい.

<参考>

2019年3月20日記


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