2019科学サミット20共同声明
今年(2019年)3月6日(水)に日本学術会議で開催された2019年科学サミット(S20)において,共同声明「海洋生態系への脅威と海洋環境保全−特に気候変動及びプラスチックごみについて−」(原文は英文)が採択された.この共同声明はその日のうちに安倍晋三首相に,8日には原田義昭環境大臣に手交された.

S20はG20に参加する20か国の,我が国で言えば日本学術会議のような科学アカデミーの代表からなる会合で,2017年のドイツG20から活動を初め,今回で3回目となる.S20の目的は,G20サミットに対し,共同声明の形で科学に基づく勧告(science-based recommendation)を行うことである.2017年ドイツS20では「世界の健康を改善する:伝染症及び非伝染性疾患と戦うための戦略と手段」が,2018年アルゼンチンS20では「食糧・栄養に関する安全保障−土壌改良と生産性の向上−」がテーマとなった.

今回のS20では,日本から植松光夫東大名誉教授が基調講演者として,パネルディスカッションでは海洋研究開発機構の白山義久氏がモデレーターとして,磯辺篤彦九大教授らがパネラーとして参加した.共同声明では,地球温暖化は海面上昇や海洋酸性化,海洋貧酸素化をもたらし,海洋生態系に脅威となっていると指摘し,そしてプラスチックごみの集積は新たに出現した課題であるとする.その上で,社会に及ぼす影響を最小限に抑えるため,科学の果たす役割は重要だとして,次の提言を行った.(1)海洋資源の開発には専門家による科学的根拠に基づく助言の必要性を,(2)海洋生態系へのストレス軽減のための行動の増強を,(3)科学的根拠に基づく目標設定とフォローアップと,都市や地域レベルでの循環経済・社会の実現を,(4)調査・研究基盤の能力強化と人材育成を,(5)オープンアクセス可能なデータ保管装置と管理システムの確立を,(6)国際協力の下での調査・研究活動と情報の共有を,それぞれ訴えた.

一海洋研究者としては今回の共同声明は時宜を得たものとして大歓迎である.具体的に海洋環境の保全が主たるテーマになるまでには,多くの関係者の陰の努力があったに違いない,準備の労を取られた方々に,感謝と敬意を表したい.海洋のプラごみ問題は,2015年のドイツG7サミットや,昨年のカナダG7サミットでも取り上げられた.特に昨年のサミットでは「海洋プラスチック憲章」が議論されたが,我が国と米国が承認せず,この問題に対する両国の後ろ向きの姿勢が露呈した.今回のS20の共同声明もあることでもあり,6月の大阪G20 サミットでは,海洋プラごみ問題に対し.我が国が主導して一歩も二歩も進んだ対応策を打ち出して欲しいと願うものである.


2019年4月20日記


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