海洋情報把握技術開発プログラム
昨年(2018年)策定された第3期海洋基本計画では,海洋状況の迅速で的確な把握(海洋状況把握:Maritime Domain Awareness:MDA)の強化が謳われた.「海洋状況」は幅広い意味を持つが,海洋の物理・化学・生物学的な状況もその中に含まれる.文部科学省はこれを受けて,2018年度より5か年計画で,2008年度より走らせてきた「海洋資源利用促進技術開発プログラム」の中のサブプログラムとして,「海洋情報把握技術開発」枠を設けた.目的は,海洋情報把握に活用できる自動計測機器や自動分析機器を開発すること,そして研究段階に留めず,最終的に実海域において実用化することである.さらに,民間企業への技術移転などの成果の普及を図ることも射程に入れている.

このプログラムでは以下の3領域で公募が行われた.すなわち,(1)海洋酸性化・地球温暖化,(2)生物多様性,(3)マイクロプラスチック,のそれぞれに関わる情報取得のための技術開発である.応募されたものの中から,厳正な審査を経て,(1)BGC-Argo搭載自動連続炭酸系計測システムの開発(研究代表者:東京大学・茅根創教授),(2)海洋生物遺伝子情報の自動取得に向けた基盤技術の開発と実用化(東京大学・濱崎恒二教授),(3)ハイパースペクトルカメラによるマイクロプラスチック自動分析手法の開発(海洋研究開発機構・藤倉克則分野長)の3課題が選定された.

いずれも野心的な計画であり,実用化の暁には海洋環境の把握が格段に進むと期待される.例えば,海洋生物遺伝子情報の自動取得では,生物から自然と剥がれ落ちる遺伝子(ゲノム)情報を分析することで,その海域にどのような生物が存在しているかを評価するもので,最先端の環境モニター手法の一つである.現在は採水した海水を実験室に運んで分析を行っているが,これを現場でかつ無人で行うことを狙っている.また,マイクロプラスチックに関しては,プランクトンネットで採集できない300μm以下のものも対象に,その個数や大きさと,そして赤外域で連続分光することでポリスチレン,ポリプロピレン,ポリエチレンなど,何種類もあるプラスチックの種別まで明らかにしようとするものである.

私は一昨年末に文部科学省からこのプログラムのプログラムディレクター(PD)への就任を依頼された.依頼書には,「(略)貴殿を技術参与として,海洋調査・研究の在り方に関する情報収集,プログラムや資金配分に関する助言,各課題における研究開発の進捗管理棟の業務に従事いただきたい」とあった.任期は1年で,毎年更新することになる.私の役目を端的に言えば,3課題が所期の目的を達するよういろいろとお世話することである.ぜひともこのプログラムを成功させたいと決意している.


2019年5月20日記


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