深海魚と地震
このところ暖水魚が日本近海に出現したとの報道や,深海魚が出現したとの報道が多い.この深海魚の出現に関し,日本では古くから地震の前兆との言い伝えがあった.最近,東海大学と静岡県立大学の研究グループが多くの資料を精査し,深海魚出現と大地震の発生は無関係との論文を公表したことが報じられた(2019年6月18日付米国地震学会誌/DOI:10.1785 /0120190014).

研究グループは1928年11月から2011年3月までの新聞記事を調べ,リュウグウノツカイやサケガシラなど8種類の深海魚に着目し,計336件の出現報告と地震の関係を精査した.発見日から30日後までの間で,発見された場所から半径100q以内に震源を持つマグニチュード(M)6以上の地震の有無を調べた.その結果,条件を満たす地震は,2007年7月16日の「新潟県中越沖地震(M6.8)」の1件であったという.研究グループはこの結果を基に,両者は無関係との結論を出した.これを報道した新聞記事に,東海大学海洋研究所の織原先生が,「言い伝えが事実であれば防災に有益だと考えたが,そうではなかった.信じられていた地方もあるが,地震予知に役立つとは言えない」とコメントした(朝日新聞,6月27日付).

日本では古くから,地底深くに生息している大きなナマズが暴れると地震が起こり,川などにいるナマズも地震が起こるときに異常行動をとると信じられてきた.ナマズが地震を起こすとは荒唐無稽であるが,地震とナマズの行動の関係は,多くの研究者の興味を引いてきた.この一人に畑井新喜司先生(1876-1963)がおられる.畑井先生は東北帝国大学理科大学の生物学科の創設に尽力された先生で,1923(大正12)年創設時の初代教授陣の一人である.翌1924年には青森県に附属浅虫臨界実験所(現生命科学研究科附属海洋生物教育研究センター)を開設し,初代所所長となった.畑井先生はこの実験所でナマズを飼育し,地震との関係を調査した.その結果を1932(昭和7)年に帝国学士院紀要に発表した.実験を行った7カ月間で発生した179回の地震のうち,約8割に当たる149件でナマズの異常行動が見られたというのである.

地震発生前に動物の行動に異常が見られるとの報告は今でも多い.しかし,それらを精査すると,例えば動物の健康状態などそう断定するには,考慮すべき諸条件に不明なことが多いのだという.したがって,動物の異常行動が地震の前兆現象かどうかは,まだ断定できる状態にはないのだという.今後,因果関係も含めて,両者を結びつける研究の推進が望まれるではなかろうか.まさに畑井先生の口癖である「それは君 大変おもしろい ひとつやってみたまえ」である.これを刻んだ石碑が,同センター内に設置されている.


2019年7月20日記


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