南極オゾンホールが縮小傾向へ
今月(2019年8月)初め,気象庁が1996年より毎年発行している「気候変動監視レポート」2018年版(レポート2018と略記)が手元に届いた.今回の冊子の冒頭には,T.「平成30年7月豪雨」及び2018年夏の記録的高温,U.南極オゾンホールの回復傾向,V.東経137度に沿った海洋の長期解析値の提供を開始,の3つのトピックスが取り上げられていた.Uの項目は題名の「回復」という用語に戸惑うが,南極の春から初夏に毎年形成されるオゾンホールが,その大きさを次第に縮小しつつあるとの話題である.

春から初夏にかけての南極上空の成層圏下部に,オゾン濃度が周辺よりも極端に少ない穴のような領域(オゾンホール)が形成されることは,1982年10月の我が国の南極地域観測事業隊忠鉢繁隊員(当時気象研究所・研究員,現千葉科学大学・教授)の観測で突き止められ,1984年の国際シンポジウムで報告された.査読論文としては英国南極観測事業隊のFarmanらの1985年のNature論文が最初であるので,オゾンホールの発見はFarmanらと表現されることが一般的である.いずれにせよ,その後人工衛星の観測資料などを用いた解析が進み,2000年代にかけてオゾンホールは急激にその面積を拡大していることが指摘された.同時にオゾン層破壊のメカニズムの研究が進み,クロロフルオロカーボン(フロン)ガス類が大きな役割をはたしていることが明らかとなった.これを受け,「オゾン層の保護のためのウィーン条約」(1985年)や,「オゾン層を破壊する物質に関するモントリオール議定書」(1987年)が,矢継ぎ早に制定され,フロンガス類使用の規制がこの間行われてきた.

実際,大気中のフロンガス濃度は現在減少傾向にある.レポート2018の71ページには,3種類のフロンガス濃度の経年変化が示されている.CFC-11とCFC-113は1992・93年ごろをピークに,CFC-12は2000年ごろをピークに,それぞれ傾向は緩やかであるが減少している.呼応してオゾンホールの最大面積も,年々変化が大きいものの,2000年ごろをピークに減少傾向を見せているのである(6ページ).昨年11月にエクアドルのキトで開催されたモントリオール議定書第30回締約国会合においても,総括要旨の中にオゾンホール面積は減少傾向にあるとの評価結果が明記された.

人為的気候変化である地球温暖化が現在進行中であり,食い止めようにもなす術を持たないような状況にあるが,このオゾンホールの縮小,すなわち,オゾン層の回復という話題は,私たちを大いに勇気づけるものである.論理的に考えられるように,フロンガスという破壊物質を抑制すれば,オゾン層がきちんと回復するという帰結を得ているのだから.地球温暖化でも,このような姿を早く見たいものである.


2019年8月20日記


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