東京港でヒアリ定着か?
強い毒性を持つ「ヒアリ」が日本で初めて見つかったのは2017年5月26日のことである.兵庫県尼崎市の輸入コンテナの中に数百匹のヒアリが見つかった.その後,神戸港,大阪港,名古屋港などで続けざまに生存が確認された.同年7月には,関係省庁の担当者が集まり.早期発見と防除に向けた取り組みを省庁横断で推進することを決めていた.それがこの(2019年)10月10日に国立環境研究所が,ヒアリが「東京港青海ふ頭で定着した可能性が極めて高い」との見解を公表したのである.この発見は,初確認以来45事例目であった.

公表後も詳しい調査が続けられ,10月21日には続報が公表された.これによると,今回の青海ふ頭の事例では,総計で働きアリ750個体,有翅女王アリ56個体,有翅雄アリ2個体,幼虫10個体が見つかった.これらは既に殺虫駆除されているが,専門家からは,「繁殖可能な女王アリが飛び立ち他の場所に広がった可能性が高いこと」,「速やかに徹底した周辺調査と防除を行わなければ定着が危惧されること」の2点が指摘された.また,続報が公表された21日には首相官邸で関係閣僚会議が開催され,「これまでと次元の異なる事態.政府一丸となって定着阻止に取り組む」ことを決めたという(毎日新聞,10月22日).

日本ではヒアリは「特定外来生物」に指定されている.特定外来生物とは、「外来生物(海外起源の外来種)であって,生態系,人の生命・身体,農林水産業へ被害を及ぼすもの,または及ぼすおそれがあるもの」である.ヒアリはアルカロイド系の毒を持つため,刺されると非常に激しい痛みが出るという.ヒアリの漢字名が「火蟻」である由縁である.人によってはこの毒に対してアレルギー反応を起こすこともあり,アメリカだけで年間1500件近くも起こっていると報告されている(環境省ウェッブサイトより).そのため,日本は生息可能地域であるため,「本邦への侵入を警戒する重要性が高い」とされている生物である.

ヒアリはもともと南米が原産地であるが,人やモノの移動とともに,生息地が世界中へと広がった.1930年代には北米に侵入し生息域となった.2000年代に入ると中国・台湾・オーストラリアに侵入し,これらの地域にも生息するようになった.一方,ニュージーランドでは2001年に侵入が確認されたが,2年余りをかけて徹底的に駆除を行い,2003年には定着を阻止したと宣言した.わが国でも住む人たちの生命を守り,陸上や海洋の生態系を保全するためには定着阻止に向けての徹底した駆除を行う必要がある.そのためには,空港や港などでの早期発見と迅速な駆除という水際作戦が最重要である.さて現在,そのような防御体制がとれているのであろうか,少し心配である.


2019年12月20日記


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