中学校理科の中の海洋
10年ごとに改訂される小・中学校の新しい学習指導要領は2017年3月に告示され,2021年4月から施行される.既に新指導要領に準拠した教科書が編まれ,小学校は今年度から,中学校は来年度から使われる事になっている.現在,各市町村の教育委員会は中学校で使用する新しい教科書の選定作業を進めている.

さて,小学校や中学校の理科の中での海洋の取り扱いである.海洋はこれまで独立した単元(一まとまりの体系化された学習内容)とはなっていなかった.そのため,初等中等教育に海洋の単元を設けることは,日本海洋学会の懸案事項となっていった.今回の指導要領改訂に向け,学会の教育問題研究会が中心となって議論を進め,「小学校理科第4学年単元『海のやくわり』新設の提案」と題する提案書を2016年3月にまとめた.学会はこれに賛同する海洋関連の学協会30団体との連名で,同年4月4日に中央教育審議会・会長と文部科学省初等中等教育局・局長に提出した.しかし,残念ながら今回の小・中学校の新指導要領には採用されなかった.

中学校理科の新指導要領では「海洋」の言葉が2回現れる.「第2分野」,「2 内容」,「(4)気象とその変化」,「(ウ)日本の気象」,「? 大気の動きと海洋の影響」の項目である.この項目は次のように説明されている.「気象衛星画像や調査記録などから,日本の気象を日本付近の大気の動きや海洋の影響に関連付けて理解すること」.

新指導要領に準拠した中学校理科の教科書は,5つの会社から提案されている.単元「(4)気象とその変化」は,2年生の教科書に取り上げられている.単元名は指導要領の「気象とその変化」とする教科書もあれば,「天気とその変化」,「気象のしくみと天気の変化」,「地球の大気と天気の変化」とした教科書もある.扱っている内容や分量は各社まちまちであるが,すべての教科書で季節風と海陸風が起こる仕組みの中で海洋を取り挙げていた.また,日本海側の冬の豪雪の要因として日本海の存在を指摘した教科書や,エルニーニョや地球温暖化を取り上げている教科書もあった.しかし,どの教科書も,海洋は脇へ追いやられているという印象は否めない.

海辺に住んでいる人は別であろうが,ほとんどの人にとって,日常の中で海を実感することは稀であろう.海に起因する災害も,陸上で起こる災害に比べはるかに少ない.このようなことが,海が取り上げられない要因なのであろう.しかしながら,地球温暖化問題では海洋が重要な役割を担っている.また,国連の「持続可能な開発目標(SDGs)」の達成や,そのための「持続可能な開発のための教育(ESD)」の中で,海の重要性が叫ばれている.初等中等教育の中で海を取り上げる重要性を,今後も地道に主張していかなければならないだろう.

2020年7月20日記