新しい中学校教科書と国連「持続可能な開発目標」
来年度から中学校で使用する教科書は,2017(平成29)年3月に告示された学習指導要領(新指導要領)に従って編集されたものである.最近,これらの新しい教科書を手に取る機会を得たが,多くの教科書で国連「持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals: SDGs)」が取り上げられていることが分かった.

2008(平成20)年制定・09(平成21)年改訂の旧指導要領では,「持続可能な社会を形成する」などの文言は使用されていたが,SDGsが2015(平成27)年9月の国連総会で決議されたのを受けて,今回新指導要領に反映されたものである.新指導要領では,社会科の公民的分野(公民)で取り上げることが明記された.公民では,「A 私たちと現代社会」「B 私たちと経済」「C 私たちと政治」「D 私たちと国際社会の諸課題」の4分野を扱う.この中のDの「内容」の項目で,「世界平和の実現と人類の福祉の増大のためには,国際協調の観点から,(略)国際連合をはじめとする国際機構などの役割が大切であることを理解すること」としている(新学習指導要領60ページ).そして,「内容の取扱い」の項目で,「『国際連合をはじめとする国際機構などの役割』については,国際連合における持続可能な開発のための取組についても触れること」とされた(62ページ).

今回,6つの教科書会社で公民の教科書が制作されたが,全ての社がSDGsを取り上げた.しかし,取り上げ方はまちまちで,17の目標の日本語訳を表にしただけの教科書もあれば,本文にロゴを掲載しその内容の解説に加え,表表紙や裏表紙の裏の見開きのページに,SDGsと関連する多くの写真を掲載し,‘未来の社会をどう作り出そうか’と問いかけた教科書もあった.驚いたのは公民以外の教科でもSDGsが取り上げられていることである.教科名で書けば,国語(4社中1社:1/4と表記),地理(4/4),地図(1/2),歴史(3/7),理科(1/5),保健体育(1/4),技術(1/3),家庭(3/3),英語(1/7),道徳(1/6)である.なお,書写(4),数学(7),音楽(2),美術(3)には取り上げられていなかった.

SDGsが国連で採択された直後から,日本では新聞でSDGsの紹介や取り組みの重要性についてのキャンペーンが行われていた.しかし,最近メディアでSDGsに触れる機会が少なくなってきた.これはとても残念なことである.SDGsは,何かをすれば一挙に解決するような課題ではないので,世界中の人々と連携した地道な継続した取組が求められている.このような立場から,今回の中学生へのSDGsを題材にした教育は大いに歓迎したい.そして,一人ひとりが自分の問題として何らかの日常的なアクションに結び付けてくれることを期待したい.ところで,私たち海洋研究者は,SDGs No. 14の「海の豊かさを守ろう」に向けた「国連海洋科学の10年」をしっかりやることが求められている.

2020年8月20日記