連携研究と共同研究
先月(2020年9月),新学術領域研究「変わりゆく気候系における中緯度大気海洋相互作用hotspot」(ニックネームは「Hotspot2」,代表者:野中正見博士(海洋研究開発機構))の今年度第1回領域全体会議が,3日間にわたりオンラインで開催された.私は「総括班評価者」の立場で,3日間とも参加した.

総括班や計画班の研究の進捗状況の報告とともに,参加している分担研究者や協力研究者,公募研究者,博士研究員や大学院生の研究の一端も知ることができた.この新学術領域研究には,気象学と海洋物理学を基礎分野として,大気海洋相互作用に興味を持つ人たちが多数参加している.今回発表された研究も大変幅が広く,奥も深く,研究者の層の厚さを実感した.今でこそ気象と海洋物理学の研究者が共同して活動することは当たり前のことであるが,今から30〜40年前の1980年代は,この分野の研究はまさにフロンティア領域であった.当時鳥羽良明先生が担任の私たちの研究室は,他大学に先駆けていち早くこの領域に足を踏み入れたグループであった.当時を経験した私にとって,今回の会議の状況はそれこそ当時とは‘隔世の感がある’であった.

さて,総括班評価者としてコメントを求められたので,発表を聞いて気になったいくつかの点について話題提供した.その一つが「連携研究」である.計画班のリーダーから多くの連携研究の可能性が報告されたが,気になる点があった.すなわち,異なる班に属するメンバーが共同研究すること,イコール連携研究である,と無条件に捉えているように思えたからである.それに対して,異なる手法やアプローチをする人たちが一緒になって研究し,その結果として単独の手法やアプローチでは到達しえなかった新しい知見を得るような研究こそが連携研究ではないかとの問題提起である.

新学術領域研究は,科学研究費補助金の基盤(A)クラスの計画班が複数集まって構成されている.基盤(A)クラスの班が,単独ではなく束になって同時進行するところに新学術領域研究の意味がある.すなわち,それぞれの班の研究が進展するにつれて,班を跨いだ研究テーマや,各班の視点が融合された新しい視点が生まれてくることを期待しているのである.このような立場から,中間評価や事後評価では,連携研究の進展が評価の重要なポイントとなる.

もちろん,新学術領域の中で「共同研究」も大いに進められるべきであることは言を俟たない.様々な発想をする人達が集まることで新たな発想が生まれ,研究にも深みが出てくる.共同研究は自然発生的なものであり,誰の制御下にも置かれるべきでなく,大いに奨励されるべきである.ただ,この研究は「連携研究」であると主張するには,それなりのポイントがあることを念頭に置きましょう,と言いたかったのである.

2020年10月20日記