Topics 2015.06.12

北極域における温室効果気体の観測

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 二酸化炭素(CO2)やメタン(CH4)などの温室効果気体が人間活動に伴って急速に増加しており、様々な地域で温暖化が顕在化しつつあります。この問題に対応するためには、まず現在の地球表層における温室効果気体の循環と収支を明らかにし、その上で、将来の気候・環境の変化に対する温室効果気体循環の応答・反応について理解を深める必要があります。北極域を含む北半球高緯度域には、温室効果気体の全地球規模循環に影響を与える放出源や吸収源(たとえば、北方林、北極海、湿地、永久凍土など)が多数存在し、かつ北極域で最も大幅な温暖化が予測されていることから、温暖化によって自然界からの温室効果気体放出量が増加する可能性や、大気--陸上植物・土壌間のCO2交換量が変化する可能性などが指摘されています。しかしながら、広大な北極域・北半球高緯度域へのアクセスが簡単ではないことから、これまで温室効果気体の観測例は限られたものにとどまっていました。

 近年になって、北極域における環境変動への関心が高まり、また、オールジャパン体制で北極研究を推進する必要性が認識されはじめたことにより、2011年に国立極地研究所を中心として「GRENE北極環境変動」研究プロジェクトが開始されました。本研究室は、GRENEプロジェクトの中で「北極域における温室効果気体の循環」に関する研究グループの取りまとめ役として広範な観測・研究を推進しています。本研究グループは、国内12研究機関(東北大、国立極地研究所、名古屋大、北海道大、宮城教育大、東京工大、東京農工大、国立環境研究所、産業技術総合研究所、気象研究所、海洋研究開発機構、理化学研究所)の30名以上の研究者で構成されており、これらのメンバーによって北極大気・海洋観測やグリーンランド氷床コアを用いた研究、数値モデルを用いた研究が進められています。

 下図に、本研究による温室効果気体の環北極域観測網を示します。地上基地として、スバルバール・ニーオルスン(北緯79度、東経15度)、カナダ・チャーチル(北緯59度、西経94度)、利尻島などを使用し、大気採取による温室効果気体濃度・同位体比の観測や、現地に観測装置を据え付けて行う連続観測を実施しています。また、ユーラシア大陸上空の高度8〜12km(対流圏上部成層圏下部)を飛行する民間旅客機上での温室効果気体観測や、アラスカ北方のチュクチ海における大気・海洋中の温室効果気体観測、そしてグリーンランドで掘削された氷床コア試料の分析による過去の温室効果気体濃度・同位体比の復元を行っています。さらに、我が国の主要な3次元大気化学輸送モデルの開発者やこれらのモデルを駆使して研究を行っている研究者の参加を得て、北極域における温室効果気体の放出源・吸収源分布と変動を定量化する研究も行っています。

 北極域で東北大学が分担している観測の一部を紹介します。

 スバールバル諸島・ニーオルスンは、近傍に温室効果気体の放出・吸収源がほとんど存在しないため、北極域の広域を代表する観測に適した場所です。我々は、国立極地研究所ニーオルスン観測基地において1週間に一度採取された大気試料を研究室で分析する方法で、ニーオルスンにおける温室効果気体(CO2、CH4、一酸化二窒素(N2O)、六フッ化硫黄(SF6))濃度と同位体比(CO2、CH4)、そして大気中CO2の収支についての情報を持つ大気中O2濃度の観測を行っています。また、極地研・産総研の研究者と共同で、ニーオルスン観測基地におけるCO、CH4、CO2、O2濃度の連続観測も開始し、温室効果気体の様々な時間スケールでの変動と収支に関する研究を進めています。

 カナダ亜北極域のチャーチルは、ハドソン湾に面し、湿地と森林の広がる地域であり、土壌中にCO2やCH4の原料である有機物が大量に含まれています。ここでは、カナダ環境省研究所と共同で1週間に2回の大気採取による大気中の温室効果気体観測を維持しており、我々はCH4収支についての情報を持つCH4の炭素・水素同位体比の観測を担っています。

 GRENE「北極環境変動」研究プロジェクトも本年度が最終年度となり、研究成果の取りまとめに向けて、観測データの解析や大気モデルを用いた研究が進んでいます。

(文責 大気海洋変動観測センター物質循環分野 森本真司教授)


関連リンク 大気海洋変動観測センター物質循環分野

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(上から1 ニーオルスン 2 チャーチル 3 温室効果気体の環北極観測網)

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