Topics 2015.08.19

北半球の寒気の生涯(生成・流出・消滅)に係わる2つの寒気流

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[最近の研究から] 気象学・大気力学分野では、温位座標を用いた大気大循環研究の応用の一環として、寒気の「生涯」に関わる研究を始めた。

「適当な温位」を敷居値として、それより低い温位の気塊を「寒気」と考える。温位は断熱保存量なので北半球全体の寒気質量も断熱保存量だ。生成消滅には外部加熱が関わる。敷居値は目的に合わせて自由に決めることができる。北半球全体の寒気のふるまいを見る敷居値としては、280Kくらいが適当だ。

コールド・ドーム――寒気は下にあり!

最も低い温位の空気は大気の底(一番下)にある。図はいずれも北半球の冬の気候値(12-2月の平均)の気候値である。上図は温位が280K以下の寒気の厚みで最大で500hPa(約5000m)程度ある。極を中心に寒気ドームを形成しているが、完全な軸対称ではなく、超長波の影響で、波数3の構造をしている。

寒気は陸上(海氷を含む)で生まれ、海上で消滅する!

下の1枚目の図は寒気の生成(青)・消滅(橙)である。冬、極に近い陸上はキンキンに冷える。その上の大気は放射冷却により冷えて、寒気が生成される。海面水温は、簡単には変化しない。太平洋と大西洋に流れ出た寒気は、海面から多量の潜熱・顕熱をもらい、温められて消滅する。

北半球の2つの寒気大河――東アジア寒気流と北アメリカ寒気流

寒気の流れは2つにわかれる(最後の図)。我々は東アジア寒気流と北アメリカ寒気流と名付けた。前者は、ユーラシア大陸の北部を東に流れ、シベリアで南東に向きを変え、太平洋に出て消滅する。後者は、北極海からハドソン湾周辺で成長し、ロッキー山脈とグリーンランドの間を抜け、北アメリカ東海岸より大西洋に出て消滅する。寒気は重いので高い山を越えられず谷を流れる。太平洋・大西洋の消滅域はいずれもストームトラックとして有名で、活発な温帯低気圧活動が海洋上で寒気の南下・消滅を誘発している。

冬季モンスーンと寒気流出(コールドサージ)

寒気の平均的な大規模運動にかかわる寿命は、およそ30日弱と計算される。しかし、寒気流は決して定常ではなく、「蓄積」と「放出」を間欠的に繰り返している。「放出」は「寒気流出(コールドサージ)」と呼ばれる現象であり、日本の「寒波」の主役でもある。


リンク: 流体地球物理学講座

(文責 流体地球物理学講座 岩崎俊樹教授)

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