Topics 2016.12.12

欧州火星探査衛星Trage Gas Orbiter火星軌道投入に成功

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Fig.1 搭載機CaSSISによって撮影された火星赤道近傍の表面画像. 1pixelが7.2mに相当. (Credit: Roscosmos/ExoMars/CaSSIS/UniBE)

先日10月19日に地球物理学専攻惑星大気物理学分野も参画している欧州火星探査衛星Trace Gas Orbiter(TGO)が火星軌道投入に無事に成功しました。

わたしたちの地球が生命を保持しうる惑星環境になりえた本質はどこにあるのでしょうか。この観点において、隣の兄弟星、火星との比較は大変興味深いものがあります。

近年の火星探査機、大型地上望遠鏡や着陸機の観測から、火星大気中に生命・地殻活動の証拠となりうるメタン(CH4)が検出されています。地球のメタンの約90%が生命起源であることを考えると、これは非常に興味深い発見です。しかし、2004年の発見から10年以上経った今でもその起源、生成・消滅メカニズムの解明には至っていません。

これらの解明に向け、火星メタンの高精度検出や生命に重要な水の同位体計測などの初実現を目指す欧州の火星探査機TGOが、つい先日の10月19日に火星軌道投入に無事成功しました。この最新の火星ミッションで得られたカメラのFirst Viewや分光器のFirst spectrumが欧州宇宙機関のページでご覧いただけます。カメラの詳細画像で見られるのは表層から液体が漏れ出した形跡であり、表層と大気とのやりとりを理解する糸口になります。赤外分光器の分光スペクトルデータからは、火星大気中の水蒸気の吸収がみてとれます。このようなデータから大気の組成やその混合比を調べ、水やそのほか様々な分子種の全球的な分布や変動を理解することができます。定常運用に移行するのは1年後となりますが、今後これまで得られたことのない素晴らしい科学データがどんどん地球に送られてくるのを想像すると、ワクワクします。

http://exploration.esa.int/mars/58594-first-views-of-mars-show-potential-for-esas-new-orbiter/

東北大地球物理学専攻では、私たちは、この前身であるMars Expressによる火星観測から引き続きこのミッションに協力参加しています。TGOでは、搭載された赤外分光器NOMADおよびACSのCo-I(共同研究者)である笠羽康正教授、本専攻卒業生の青木翔平博士(NOMAD研究員としてベルギー勤務)が中心となって本ミッションに参画しています。これまでもさまざまなミッションで協力関係にあったロシアのOleg Korablev博士(ACS Principal Investigator)、ベルギーのAnn C Vandaele博士(NOMAD Principal Investigator)を始めとする国内外の研究者ら、そして学生たちと協力しながらメタンなどの起源を明らかにし、火星に生命が存在し得たのか(しうるのか)という重要な未解明問題の解決につながる研究を行っていく予定です。同時期に火星軌道で観測を継続しているNASA MAVEN探査衛星とも連携することで、火星大気の包括的な理解につとめたいと考えています(参照記事#02 2015.04.29)。

文責 中川広務 惑星大気物理学分野 助教

link
http://exploration.esa.int/mars/58594-first-views-of-mars-show-potential-for-esas-new-orbiter/
http://pat.gp.tohoku.ac.jp/wordpress/

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Fig.2搭載器CaSSISによって撮影された火星表面3D画像(2016年11月22日撮影). (Credit: Roscosmos/ExoMars/CaSSIS/UniBE)

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Fig.3 搭載器ACSによって得られた火星中間赤外スペクトル. (Credit: Roscosmos/ExoMars/ACS/IKI)

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Fig.4搭載器NOMADによって得られた火星近赤外分光スペクトル. (Credit: Roscosmos/ExoMars/NOMAD/BISA/IAA/INAF/OU)

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