Topics 2017.03.27

インドネシアBiak島での赤道域成層圏大気採取実験

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写真2 大気球に取り付けたビデオカメラによりインドネシアBiak島上空の高度30 kmで2015年2月28日に撮影された風景。

我々は1985年以来、日本や南北両極域で大気球を用いた成層圏大気の採取を行ってきた。これまでに得られた成果の一例を図1に示す。この図は、CO2やSF6の濃度の経年変化から導出した北半球中緯度の高度20-35kmにおける大気の年齢(大気が成層圏に流入してからその地点に到達するまでの平均経過時間)を示しており、その値は4-5年となっている。また、その年齢は過去30年間にわたって少なくとも一定か、または微妙に増加しつつあることが明らかなった。この結果は、近年の地球温暖化を取り込んだ大気大循環モデルシミュレーションによる大気年齢の若年化の予測とは全く反するものであり、大きな反響を引き起こした。

このように、成層圏大気の運動や化学的過程には未解明な問題が数多く存在する。その最も大きな理由は直接観測が気球や特殊な航空機に限られていることにある。特に熱帯域は対流圏大気が成層圏に流入する入り口にも関わらず、対流圏界面高度が高いこともあり、観測が非常に限られていた。

そこで、我々のグループと北海道大学の長谷部文雄教授らのグループが共同研究を立ち上げ、2015年2月にインドネシアのBiak島で大気球を用いた成層圏大気の採取実験や小型気球を用いた水蒸気、オゾン、エアロゾル、雲粒子観測および地上ライダー観測などの大規模総合観測を実施した。この共同観測には、日本側から宇宙科学研究所、北海道大学、東北大学、京都大学、名古屋大学、宮城教育大学、東京工業大学、福岡大学、産業技術総合研究所、国立極地研究所の研究者が加わり、インドネシア側からインドネシア航空宇宙局(LAPAN)の研究者が参加した。本観測の準備から実施までにさまざまな困難に遭遇したが、メンバーの総力を結集することにより、ほぼ完璧に遂行することができた。

写真1は2015年2月28日に実施した大気球実験の様子である。写真の左下に置かれた物体が成層圏大気の採取装置である。この装置は、高圧ネオンガスを外に放出する際にジュールトムソン効果によって生じる寒冷を利用して成層圏の大気を固化して大量に採取するもので、我々が独自に開発した大変ユニークなものである。この装置本体の重量は約45kgであり、これを高度25-30km高度まで飛揚するための大気球が写真中央から右下にかけて写っている。写真は、大気球の頭頂部にヘリウムガスを注入しているところである。なお、この気球は成層圏で満膨張した際には直径が約40mにもなる。

写真2は、この大気球に取り付けたビデオカメラにより高度30 kmで撮影された風景である。下半分には海とBiak島の一部およびさまざまな雲が写っており、左上には輝く太陽が写っている。また、水平線には薄い大気層が、その上には漆黒の宇宙が見える。すなわち、この高度まで上昇すると大気密度が地上の1.7 % 程度になるため、大気分子による太陽光の散乱の影響が極端に小さくなり、青空はもはや見ることができない。

図2にBiak島での大気球実験によって求められた赤道域成層圏大気のCO2濃度の鉛直分布を示す。この図には、これまで我々が日本や南北両極域で得たCO2 濃度の分布も示されている。CO2 濃度は対流圏界面から高度20-25kmまでは高度と共に低下し、それ以上の高度ではほぼ一定の濃度になることが分かる。また、彩色された丸印で示された日本上空のCO2 濃度のうち、高度25km以上の濃度が経年的に増加していることも分かる。一方、2015年2月にBiak島上空で得られた濃度は、同年8月6日に日本上空で得られた濃度に比べて明らかに高くなっている。すなわち、Biak島上空の成層圏の大気の年齢は中緯度成層圏の年齢に比べて若いことが分かるであろう。現在、我々はCO2濃度から導出した大気年齢や、水蒸気テープレコーダー(衛星観測から得られた熱帯成層圏大気の水蒸気濃度分布が最下層から上部に向かうにつれて年輪のように濃淡の構造を形成している事を表したもので、季節的な脱水を記録したものからこの呼称が付けられた)から導出した大気年齢を比較し、熱帯域成層圏の大気輸送や混合について解析を進めている。また、大気主成分の重力分離やN2Oの同位体(アイソトポキュール)を指標とした大気年齢の研究も進めつつある。

文責  青木周司 教授(大気海洋変動観測研究センター物質循環学分野

 

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図1 CO2およびSF6濃度から導出された北半球成層圏の大気年齢の変化(Engel et al., 2009)

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図2 成層圏におけるCO2濃度分布。黒ダイヤは2015年2月にインドネシアBiak島で得られたもの、彩色された丸印は1985-2015年の期間に日本上空で得られたもの、△▽は北極域Kiruna上空で得られたもの、□は南極昭和基地上空で得られたものである。

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写真1 インドネシアBiak島で2015年2月28日に実施した大気球実験の様子。大気球にヘリウムガスを注入しているところである。

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