Topics 2017.05.20

地震波ノイズを用いて地下を監視する

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図 桜島での地震波速度変化(青丸:2012年-2014年,全15観測点ペアの平均)と面積歪(赤十字)[Hirose et al., 2017]

地面は,地震の時にしか揺れていないと思っている人が多いかもしれません.しかし,実はそうではありません.地震の無い時でも,体には感じられないぐらい微かですが,地面は振動しています.このような振動を雑微動と呼んでいます.波浪や風などの自然現象に加えて,工場や交通機関などの人間活動が原因と考えられています.固体地球物理学講座(地震・火山学分野)では,この雑微動を利用して断層周辺や火山の地下の状態を調べる研究に取り組んでいます.

雑微動はいつでもどこでも使えるという点が大きなメリットです.実際の使い方は次の通りです.2つの観測点で雑微動のデータをずっと記録しておき,それら2つの観測点のデータの相互相関関数を計算します.すると不思議なことに,その相互相関関数が,2つの観測点のうちの1点を震源としもう1点を観測点とする地震波形になります.これが「地震波干渉法」と呼ばれる手法の原理です.

この原理に基づいて,雑微動の相互相関関数を毎日計算し,2観測点間を伝わる地震波の到達時刻や波形形状を調べることで,地下の状態を監視することが可能になります.上の図は,鹿児島県の桜島での2012年から2014年までの気象庁による観測データを用いて,上の原理に基づき解析を行った結果です.地震波速度(青丸)は約1年周期で変動しており,春に低下,秋に上昇していることが分かります.この結果を解釈するために,国土地理院のGNSS観測データを用いて桜島の山体変形(面積歪)を計算し,地震波速度変化と比較しました(赤十字).その結果,両者の変化がよく対応しており,山体が膨張している時には地震波速度が低下し,山体が収縮している時には地震波速度が上昇していることが分かりました.火山体構造の応力変化を地震波速度の変化としてとらえたものと考えられます.桜島においては噴火に伴う地震波速度の変化を捉えることが今後の課題ですが,例えばフランスのレユニオン島の火山では噴火に先行する地震波速度の変化が捉えられています.このような解析を進め,観測事例を蓄積することにより,地震波干渉法を火山噴火の予測法として利用できる可能性があります.

(文責 固体地球物理学講座 中原恒准教授,西村太志教授)

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