Topics 2021.05.21

光ファイバーで振動を捉える

 今日、海底を含めた世界中に光ファイバーケーブルが張り巡らされ高速な情報通信を行うことが可能です。この数年、地震学の分野では、この光ファイバーケーブルを通信ではなく、地面の揺れを計測するために用いる研究が普及し始めてきました。この計測方法はDAS(分布型音響計測)と呼ばれています。計測機から光ファイバーケーブルに光パルスを入射させると、光ファイバー中にわずかに含まれる不純物によって散乱された光が計測機に戻ってきます。ケーブルに振動が加わると、ケーブルが伸び縮みし、戻ってくる信号が変化します。この変化を解析することで、光ファイバーケーブルの任意の場所での伸び縮み(ひずみ)を検出することができます(図1)。この手法により、長さ数十kmの光ファイバーケーブルに沿って、数m間隔でひずみを計測することが可能となり、従来の地震計を設置する観測手法と比較して、圧倒的に高密度で揺れの空間分布を把握することが可能となります。また、特別な光ファイバーケーブルを用いる必要はなく、既存のケーブルを利用することができるため、コストがあまりかかりません。

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図1 DAS計測の概念図。計測装置から光パルスを出力し、その後方散乱波記録を解析することで、ケーブル沿いのひずみを計測できます。このように、光ファイバーケーブル自体がセンサーとなり、計測可能な場所がケーブル全体に分布しているため「分布型音響計測」と呼ばれています。光ファイバーケーブルは、空中に高架として設置されている場合もありますが、地下にある場合には地面の振動を記録することが可能です。

 固体地球物理学講座では、地震・噴火予知研究観測センターと協力し、福島県の吾妻山や、宮城県内を通る国道4号沿いに国土交通省が敷設していたケーブルを利用させていただき、DAS計測を行いました。吾妻山では、火山性地震の波動場を高密度で捉えることに成功し、震源決定や浅部構造推定を行いました(Nishimura et al., 2021)。これらのケーブルは道路沿いに設置されていることもあり、車による振動などの人間活動による揺れも記録されます。今回は、そのようなDASで記録された地震とは異なる事例を紹介したいと思います。

 図2は、吾妻山の磐梯吾妻スカイライン沿いの光ファイバーケーブルで記録された1分間の記録例です。横長に斜めに記録される車の移動に伴う信号が顕著にみられます。このように、DAS計測を行うと交通モニタリングを行うことも可能です。この記録には、南から北方向に秒速420mで伝播する波群が捉えられています。この時刻に地震は発生しておらず、最初は振動源がわかりませんでした。調べると、この日は吾妻山から南に60kmほどの場所にある陸上自衛隊の白河布引山演習場で大砲を使用した訓練が行われていることがわかりました。その大砲による音波が吾妻山まで届いたものだと考えられます。音波は直進して吾妻山に届いたのではなく、上空から戻ってきたものが到来したため、音速(約340m/s)より見かけ速度が大きかったことが示唆されます(図3)。

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図2 吾妻山で計測された1分間のひずみ速度記録。ひずみ速度の符号を赤と緑で表し、強さを色の濃さで示しています。横長の直線的なシグナルは車の移動を表しており、右上がりのシグナルが山頂方向へ向かう車に対応しています。0秒から30秒付近にかけて、南から北に伝播する波が記録されていることがわかります。

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図3 (左)吾妻山の光ファイバーケーブルと陸上自衛隊白河布引山演習場の位置。(右)演習場から吾妻山に向かう経路の地形。横軸の距離に比べて縦軸の標高を拡大表示しています。

 次に、国道4号沿いで行ったDAS計測で記録された振動です。ここでは、国土交通省の古川国道維持出張所に計測装置を設置させていただき、そこから南の仙台方面に約50kmにわたって、5m間隔でひずみを計測しました。1日1TB弱と大量のデータ量となりました。図4は、大崎市を流れる鳴瀬川にかかる三本木大橋付近の10秒間の振動記録です。車が橋に差し掛かると橋全体に振動が伝わり、しばらく揺れ続けます。橋脚を基準とした固有振動の定常波が形成されている様子が確認されました。DASによる非常に高密度の観測によって、このような振動の時空間分布が捉えられるようになりました。この定常波の固有振動数の時間変化の様子を調べると、気温と負の相関があることがわかりました。これは、温度に応じた橋の収縮による変化だと考えられます。このようにDAS計測は、地震の解析だけでなく、橋や道路などのインフラのモニタリングといった応用も考えられます。

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図4 三本木大橋付近でのひずみ速度の記録。77秒付近で励起された振動が次第に時空感的に定常的な分布になっている様子がわかります。ひずみは変位の空間微分量であるため、橋脚部分で大きな振幅となっています。

 通常の地震観測では、なるべく人間活動の影響がない場所を選んで地震計を設置します。しかし、通信目的である光ファイバーケーブルは、人間活動が活発な場所に設置されています。そのため、地震解析にとってはノイズとなる自動車などの人工振動が多く含まれています。また、データ量も膨大なため、大量データから効率よくシグナルを取り出す手法開発が求められています。さらに、従来の地震計では、地面の揺れの大きさやその速度が計測されていましたが、DASではその空間微分量であるひずみが計測量であるため、それを考慮した解析手法の発展も行われ始めてきています。今後、DASは地震計測の手法の一つとしてその地位を確立すると思われます。現在は、外国製の計測装置が主流で、海外と比べて日本ではまだ事例が少ないですが、これまでより詳細な地下構造イメージングや、そのモニタリングに加えて、これまでは見えなかった振動を用いた解析が、今後数年で数多く報告されると思われます。しばらくは、DASを用いた研究の動向から目が離せません。

文責 江本賢太郎(固体地球物理学講座 助教)

謝辞:

観測にあたって、国土交通省東北地方整備局福島河川国道事務所、仙台河川国道事務所の方々にご協力をいただきました。

参考文献

Nishimura, T., Emoto, K., Nakahara, H. et al. Source location of volcanic earthquakes and subsurface characterization using fiber-optic cable and distributed acoustic sensing system. Sci Rep 11, 6319 (2021). https://doi.org/10.1038/s41598-021-85621-8

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