浜ちゃんは「はまさき」

最近,丸谷才一氏のエッセイ集「花火屋の大将」(文春文庫,2005)を読んでいて,うすうすそうだとは思っていたが,ハタと合点したことがある.それは,人名表記と読み方についてである.ある出版社が文学辞典を改訂したとき,外国人の名前には発音記号を付すようにと編集部が注文したのだそうだ.文献では調べようがなく,担当者たちはずいぶん苦労したという.ある担当者は,本人に直接手紙を書き,数種類の読み方まで付けて,どれが正しいか聞いたそうだ.本人からの返事は,表記さえ正しければ読み方などはどうでもいいとのことだったという.


丸谷氏は,「われわれ日本人は仮名といふ調法なものをもってゐるから,ここのところが理解しにくいのだ」と指摘する.日本語には,漢字という表意文字のほかに,「ひらかな」や「カタカナ」という表音文字を持っているのがその理由というのである.確かに,公的な文書では,名前に「ふりがな」を付けることが要請される.実際,日本人は読み方を気にする人が多く,釣りバカ日誌の浜ちゃんこと浜崎伝助氏は,いつも「はまざき」ではない「はまさき」だと言い張る.


国際的な研究集会などで,いろいろな発音で呼ばれる研究者が,確かにいるのである.そして,みんな直そうともしない.そのような一人が,30代の若さでWOCE(世界海洋循環実験,世界気候研究計画のサブプログラムの一つ)を指導した米国のCarl Wunsch博士である.研究集会では,圧倒的にウンチと発音されるが,ウンシュ,あるいはブンシュと呼ばれることもある.


私の最初の外国出張は,1984年,イタリアのベネツィアで開催されたNATO高等研究集会,WOCEの水塊形成に関するシンポジウムへの出席であった.Wunsch博士も家族連れで参加していた.ベネツィア在住の研究者の自宅でパーティがあったとき,Wunsch の5-6歳くらいの息子さんもいたので,名前はどう発音するの,と聞いてみた.彼の答えは,口をうんとすぼめて「ウゥーンシュ」であった.以後,私はWunschをこう発音している.それにしてもねー,日本人の私としては,TalleyさんやKellyさんなどの口から,ウンチと聞くのは・・・.



2005719日記



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