私にとっての楽天とは |
仙台に住んでいることもあり,仙台をフランチャイズとするプロ野球球団「楽天イーグルス(正式名称は,東北楽天ゴールデンイーグルスという長い名前です)」を応援している.球団設立4年目の今年は,大いに期待できそうである.さて,開幕直後の最初の2試合,勝てる試合だったのに落としてしまい,その後も負け続けて4連敗.一体どうしたのかと思っていたら,今度は破竹の7連勝.球団設立以来はじめて,パリーグの首位に躍り出た.と思っていたら,その後は6連敗.首位から,あっという間に最下位になった.そして,その後(15日現在),3連勝中であり,順位も4位に浮上した.一喜一憂の毎日である. さて,6連敗中の4連敗目である4月9日の毎日新聞朝刊の文化欄に,作家である古井由吉さんの「楽天の日々」と題するエッセイが掲載された.もちろん,楽天イーグルスの勝敗に,一喜一憂しているというエッセイではない.古井さんにとっての「楽天」を述べたエッセイである. このエッセイによると,「楽天」の語源は中国古典にあるという.「しかしまた,楽天という言葉の意味をたずねれば,私などは及びもつかぬ境地のことであるらしい.楽天とは,天命を楽しむ,あるいは,天の理を楽しむことなのだそうだ」.そして続けて,「天ヲ楽シミテ,命ヲ知ル,故ニ憂ヘズ,と中国の古典にはある.とてもそこまでは,とあやまるほかにない」と記している. 教養の無さを露呈してしまうのだが,私はこの言葉,「楽天」の出典を知らなかった.この言葉が記された中国の古典とは,調べてみると(広義の)「易経」のことであった.易経とは,中国の古くからの占いを体系化したものであるが,宇宙観まで論じている哲学書ともいえるのだそうだ. 易経に現れる原文は,「楽天知命,故不憂」であり,その意味は,繰り返しになってしまうが,「私たちの及ばない天の定めた運命を悟り,ありのままにそれに従って楽しむ.その心構えができれば,私たちは何の心配もすることもなく,楽になれる」ということである. 「楽天知命」は,中国では現在も普通に使われている言葉らしい.日本でも,四字熟語の一つとして使われているそうだ.ただし,私の持っている2冊の四字熟語辞典には無かった. さて,古井さんのエッセイでは,毎夜毎夜,「閉店休業」の断り書きをシャッターに貼って閉める店のエピーソードを挙げている.この店は,次の日になると,前の日と同じように店を開けて商売しており,結構繁盛もしているらしい.古井さんはこの店の態度に共感を抱き,自分も同じことをしているのではないか,と自問する.そして,このエッセイは,次のように結ばれている. 「(略)二十年近く,我ながらずいぶんと仕事をしてきた.外から見れば,営々と働いてきたように見えるだろう.そうにはちがいないが,内には夜々閉店休業の男がいる.朝になり,懲りずにシャッターをあげるのが,楽天だと思っている.」 古井さんはどうやら「天命を知る」の境地に達しているようである.さて,私はどうだろう.ひとまず,私は楽天家であることは間違いない.あまり,くよくよせず,プレッシャーもストレスも過度には感じない.いつも,なるようにしかならない,あるいは,なるようになるさ,と思っているのだから.とはいえ,さて,私にとっての楽天とは,いったい何なのだろう. 2008年4月15日記 <追記> 1)インターネットで調べていたところ,多くはこの言葉の出典を「易経」としていたが,それでもかなりの記事で「論語」としているものがあった.論語は,孔子(紀元前551年または552年から479年)とその弟子たちの言行を,彼の死後,弟子たちがまとめたものである.「孟子」,「大学」,「中庸」とともに,儒教における四書の一つに挙げられている.確かに,論語には「五十にして天命を知る」など,同じような概念の言葉があるので,そうではないかと勘違いしたのだろう.でも,ふと心配になり,実際本屋さんで「論語」の解説書を紐解いてみた.金谷治著「論語」(岩波文庫,1999年,430ページ)のすべてのページをめくったつもりであるが(すみません,まだ読んでいません),ついぞこの言葉を見つけることができなかった.やはり,論語ではなさそうである.インターネットの記事は,とにかく,よくよく調べないと,大変危険である.皆さん,言うまでもないのだけれど,インターネットの記事には,注意には注意を.もちろん,私のエッセイに書いてあることも,注意には注意を. 2)同じくインターネットを調べていたところ,楽天株式会社を設立した三木谷浩史氏は,楽天を「楽天知命,故不憂」から取った,という記事があった.また,「楽天市場」は,織田信長が開いた「楽市楽座」をヒントに名づけた,というインタビュー記事もあった.いずれにしても,三木谷氏は,自分の天命を悟ったのであろう.彼の活動の社会的位置づけはともかく,彼は毎日を楽しんでいるにちがいない. website top page |