本の整理
昨年(2007年)の秋から始めたのに,まだ終わっていないことがある.それは,今住んでいるマンションで,本棚から溢れ出て床に積み重なった本の整理のことである.

私は,1995年3月末に,現在のマンションに引っ越した.それまで,2DKの間取りの木造アパートを借りていたのだが,本が本棚から溢れてどうしようもなくなったこと,また,夜でも音楽を聴きたいという欲求が出てきたことなどの理由で,ほとんど衝動買いのような形でマンションを購入した.

このマンションへの引越しのときも,かなりの本を,連れ合いが住む山形の家に運びこんだ.おおよそ3分の2ほどは,持っていったのではなかろうか.

さて,その後も私の活字中毒は相変わらずで,引っ越しから十数年を経て,また,本は棚から溢れ,床に積み重なる事態となった.マンションではできるだけ何もしたくないという怠惰な私だが,一大決心のもと,本の整理をし始めた.一大決心とは大げさな表現と思われるかも知れないが,実際そうなのである.その理由は,後で明かすことにしよう.

溢れた本の行き先は,もちろん山形の家しかない.そのため,ホームセンターから移動用の段ボール箱を購入した.本は重いので,容積の大きな箱は,重くて難儀する.あれこれ考え,20リットルの容積の段ボール箱を用意することとした.

最初4箱購入したのだが,これに意外と本が入らないのである.追加,追加と買い増した結果,結局,12箱準備した.

さて,この類の本はこの部屋に無くともいいだろう,と考え,ジャンルごとに分けて詰め込んだ.最初は調子よく,次々と段ボール箱は埋まったのだが,10箱目を越えるあたりから,スピードが鈍ってきた.

部屋を片付ける時はいつもそうなのだが,思わず知らず本を開き始め,また読んでしまうのである.あれー,こんな本買っていたの,この本は読み終えていたのかな,読んだのは覚えているが何が書いてあったのだろう,などと,ついつい本のページをめくり始めるのである.きっと,皆さんもそうですね.

本の整理をし始めて以来,既に半年以上経つのにまだ終わっていないのは,こんな事情による.いくらなんでもそろそろ,終息させないといけないのだが.

さて,もう,20年近くも前のことだが,このマンションに引っ越す前に住んだアパートを探しているときのことである.不動産屋さんが一軒の空き家を紹介してくれた.一人暮らしの予定なので,購入する気は毛頭無かったのだが,不動産屋さんはそれを承知で,私と連れ合いを案内してくれた.

案内された一軒家は,三角屋根のやや変わった外観でもあったが,びっくりしたのは,この家の書斎である.まずとても広い.そしてもっと驚いたのは3面の壁に,床から天井まで達する棚がしつらえられているのである.そして,机と椅子とともに,グランドピアノが部屋の中央においてあった.

今となっては,その家のほかの部屋がどうだったかは,まったく思い出せないが,将来,こんな書斎を持てたら幸せだろうな,と思ったことは鮮明に覚えている.連れ合いにもこの書斎は印象的だったようで,後日,あんな書斎がいいね,と話に出たこともあった.

現在,H大にいるE君は,部屋の片隅に段ボール箱を置いているのだそうだ.そして,読み終えた端から本を段ボール箱に詰めていくという.なるほど,本を読み終えるとすぐ片付けているわけで,これはいい手だとは思うのだが,この本を読んだ,と感ずる時間がなくなるのは寂しい限りである.

私にとって,なぜ本の整理が一大決心なのか,それは,ここまで出ておわかりのように,私の「夢」は,読んだ本に囲まれて過ごすことだからである.本を整理することは,私の視界から,読み終えた本をなくしてしまうことに他ならない.これは,本当に寂しいことである.そのようなわけで,読んだ本,すべてを並べられるような書斎を持つことが夢なのである.

さて,本に囲まれて過ごすという私の夢,いつ実現するのであろうか.夢は夢なのですかね.


2008年5月15日記


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