今年は「兆」 |
今月(2009年1月)5日は,「仕事始め」の日であった.私の勤めている部局では,部局長が事務系職員や技術系職員に対して年頭の挨拶を行い,その後,事務系職員(事務部親睦会)と写真撮影することが,恒例の行事となっている. この行事,もちろんのこと,私にとって初めての経験であった.年頭の挨拶として何を話せばいいのだろう,悩んだ末に,結局次のようなことを述べた.もちろん,実際の挨拶では,話し言葉で,また,原稿を読んでいるわけではないので言葉使いも多少乱暴で,そして筋も少しギクシャクしていた. 先月の中ごろ,2008年を表すのにふさわしい一文字の漢字として,「変」が選ばれたとのニュースがメディアで流れた.テレビのニュースでは,清水寺の貫主が,畳のような大きな色紙に大きな筆で,選ばれた漢字「変」を書いているところが流れていた.毎年恒例の風景である. 実は,12月12日は,「いい字一字」との語呂合わせで,「漢字の日」なのだそうだ.これは,通称「漢検」を行っている(財)日本漢字能力検定協会が定めた日らしい.この協会が,毎年,その1年を表す漢字を募集し,一番応募が多かった漢字を,その日に発表しているとのことである.2008年は,約12万通の応募の中から,6000通ほどの応募があった「変」が選ばれたのである.第2位の漢字である「金」は,約3000通の応募であるので,「変」は圧倒的な支持を得た,と言っても過言ではない. 2008年を振り返ってみると,確かに経済は急激に大不況へと変化し,また,米国の大統領選に立候補して当選したオバマ氏の選挙キャンペーンでのフレーズは「change(変革)」であった.このように,2008年には多くの変化や変動があったので,「変」が選ばれたのも,必然であろう. さて,このようなニュースに接していたので,この年頭の挨拶の機会に,2009年はどんな年になるのかと考えてみた.もちろん,2009年が終わってみないと誰にもわからないのだが,考えているうちに,不況からの脱却に「挑」戦するとか,飛び「跳」ねるようにもっと良い状態になるとか,そんな言葉が思い浮かんできた. ここで,「挑」にも「跳」にも,「兆(ちょう)」という字が入っていることに気づく.ふと,この「兆」という漢字はどういう意味なのか,興味が湧いたので手持ちの漢和辞書などで調べてみた. 兆は,まったく思ってもいなかったのだが,象形文字であった.古代中国では,亀の甲羅を火の中に入れ,甲羅にできた割れ目を観察して占いを行った.この亀の甲羅にできたたくさんの長い割れ目や短い割れ目を,簡略化して表したのが「兆」なのである. したがって,兆は,まず第1に,「きざし」,「前触れ」,「予感」,「予想」,「希望」などの意味となる.また,たくさんの割れ目ができたことから,第2に,「多い」という意味となる. さて,この「兆」に,「手」偏をつけると,「我々が努力して前触れや希望をつかむ」という意味で,「挑(いど)む」という意味になる.また,「足」偏をつけると,遠くに「跳ぶ」という意味に,さらに,「目」偏をつけると,遠くを「眺(なが)める」という意味になる.いずれも,その先の,遠くにある望ましいものを,何とかして手に入れるような,そのような意味あいを持つ漢字となる. さらに,「言」偏をつけると「誂」になる.たとえば,オーダーメードで紳士服を「誂(あつらえ)る」,などと使う.つまり,自分の好みを言葉で説明したうえで作ってもらった希望通りのもの,という意味である. ここで,「兆」のもう一つの意味である「多い」の方だが,これは「億」の1万倍のことを「兆」というように,数え方にしっかりと使われている. さて,実際,今年はどういう年になるのだろうか.もし,私たち自身で多少なりとも変えられるのであれば,事態や状況を冷静に「眺」め,高い目標に向かって果敢に「挑」戦し,そして,より良い状態に「跳」ぶことができる「兆」しが出てきたなら,と思うのである. こうは言っても,我々は具体的に何をどう行えばいいのか,抽象的過ぎて分からないのであるが,まずは,日常の業務をしっかりとこなすことが大事であろうと,私自身は思っている. 2009年1月15日記 website top page |