徒然なるままに(2009年2月) |
1.飯島和一君,大佛次郎賞受賞! 昨年(2008年)8月のこの欄で, 4年ぶりに小説「出星前夜」を出版したのを機会に,高校時代の同級生飯島和一(ペンネームは「嶋」)君のことを書いた.その後,12月22日付け朝日新聞朝刊(仙台地区)で,「出星前夜」に第35回大佛次郎賞が贈られることが報じられた. 1973年,朝日新聞社は,小説や紀行,随筆など,幅広い文筆活動で活躍された大佛次郎(1897-1973)の業績を称え,大佛次郎賞を制定した.「ジャンルを問わず優れた散文作品を対象とする」賞である. 第34回までの64名の受賞者の中には,梅原猛,堀田善衛,吉田秀和,丸山真男,加藤周一の各氏など,日本の知性を代表するそうそうたるメンバーがいる.変わった(?)ところでは,ノーベル物理学賞を受賞した朝永振一郎博士も,「物理学とは何だろうか」の著作で,1980年度に授与された. 今年に入り,1月22日付け朝日新聞朝刊には,ほぼ1面を使って,受賞対象小説「出星前夜」の紹介と,5名の選考委員の選評が掲載された.選考委員の名前と選評の見出しを書けば次のようになる.池内了氏「未来を受け継ぐ意思暗示」,井上ひさし氏「ここに歴史があった実感」,川本三郎氏「文章は冷静に 熱い感動」,高樹のぶ子氏「誠実に庶民の歴史追う」,そして,山折哲雄氏「実相に迫る筆力と気力」.5人の選者とも,心の底よりこの小説を絶賛していると判断した. さて,この嬉しいニュースに関して高校の同級生の間で交わされているメールが,私のところにも飛び込んできた.現在朝日新聞社の幹部であり,時折,古舘伊知郎の「報道ステーション」にコメンテーターとして出演しているI君からは,飯島君が純文学作家に与えられるA賞を過去に辞退しているので,朝日新聞社内では今回も辞退されるのではないかと心配した,などという裏話まで聞こえてきた. 飯島君は,私たち同級生の誇りであり,彼の姿が新聞紙上で報じられるたびに,私もやらなきゃと元気をもらっているところである. 2.サラセンの塔 昨年(2008年)暮れの朝日新聞朝刊(仙台地区)の2面下の広告欄をいっぱいに使って,しかもカラー印刷で,たった一冊の本に対する宣伝がなされた.塩野七生さんの著作,「ローマ亡き後の地中海世界(上)」である. 塩野さんは,1992年から毎年一冊のペースで「ローマ人の物語」を2006年まで,全15巻を出版した.その後のインタビュー記事で,しばらくは充電期間として執筆をやめるような話をしていたと思うのだが,こんなにも早く,塩野さんの本をまた読めるとは思いもよらなかった. この本,早速購入し,年末年始の休みを利用して楽しんだ.「歴史書」には違いないが,地中海を舞台とし,周辺の諸国の歴史を描いている.通常の歴史書は,対象とする国が決められ,その国中心の歴史が語られる.その意味で,地中海が舞台のこの本の記述は,私にとってとても新鮮であった. さて,話は変わる.1999年10月,私はフランスのサン・ラファエロで開催されたシンポジウム「OceanObs’99」に参加した.その後の10年間を見据え,どのような海洋観測・監視のシステムを作るのかを議論するシンポジウムであった. 私は,パリから空路でニースへ飛び,ニースからはバスに乗ってサン・ラファエロに向かった.バスは,海に面した崖のようなところも通って,サン・ラファエロに入った.道すがら,多くの城のような建物があったのが印象的であった. シンポジウム期間中,以前から付き合いのあったフランスのピエール・ルアル氏が,オーストラリアのネヴァル・ニコルス博士とともに私を夕食に誘ってくれた.車でかなり走ったと思うが,小高い丘の上にある,昔の城を巧みに利用したレストランであった. こんなこともあり,その旅行では,フランスの貴族あるいは騎士達は,何とたくさんの城を作ったものだと感心していた.それが,塩野さんのこの本を読んで教えられた.これらのかなりのものは「サラセンの塔」ではなかったのかと. 「サラセンの塔」とは,北アフリカの地中海に面する地域に住むイスラム教徒による海賊行為に対する防衛のための城をいう.10世紀近くまで,地中海はイスラム教徒による海賊行為が頻繁に行われていた.はたまた,現在のフランスやイタリアの沿岸の村を襲い,略奪し,奴隷として働かせるために村人を拉致し,北アフリカに連れ去った.村人にとっての唯一の防御策は,「物見の櫓」ならぬ「サラセンの塔」を建設し,海賊の襲来を一刻も早く知り,逃げる時間を稼ぐことだったという. 塩野さんのこの本の巻末には,「サラセンの塔」が建設された場所が,地図上にプロットされている.その数の何と多いことか.残念ながら,この地図は現在のイタリア沿岸のみで,サン・ラファエロを含むフランス沿岸の様子は描かれていなかった. さて,今年は,先に記したOcenObs’99から10年目に当たる.そこで,「OceanObs’09」がこの9月に,イタリアのベネツィア(ベニス)で開催されることになっている.ベネツィアはアドリア海の最奥部であり,サラセンの塔はほとんど建設されなかったようである.ベネツィアに行けるときには,サン・ラファエロ付近の海岸風景との違いを,是非,見たいものである. 3.「先が思いやられる 今年の漢字 早くも予想」 表題のような記事が,2月1日(日)の地元紙である河北新報に掲載された.先月(2009年1月)のこの欄に書いたように,(財)日本漢字能力検定協会では,年末になると,その年の世相をもっともよく表している「今年の漢字」を発表する.毎年恒例のことであり,国民にはすっかりおなじみとなっている. さて,記事によれば,通信教育会社のユーキャンが,20代から60代の男女500人へ,今年の漢字の予想をアンケート調査したのだそうだ.その第1位は,「乱」であった.この乱の意味は,反乱や叛乱という意味の乱ではなく,「無秩序な状態」の乱を指すのであろう. 2位以下の漢字は次のようなものであった.2位「忍」,3位「苦」,4位「耐」,5位「暗」,6位「迷」,7位「変」,8位「落」,9位「貧」,10位「明」. やっと,10位に「明」が出てくるのだが,何ともマイナスイメージばかりの漢字だらけである.最近報じられるニュースは,どれもこれも暗いものばかりであるので気持ちが落ち込み,明るい希望を持てないのもしょうがないのかもしれない. 現在のこの未曾有の経済不況,ある専門家は,「全治に少なくとも3年はかかる」と述べていた.私自身は,先月のこの欄に書いたように,今年,この経済不況から完全に脱却はできなくとも,良くなる「兆」しが見えればと願っている. 2009年の世相をもっともよく表現する一つの漢字,さて,あなたはどう予想しますか,いや,希望しますか. 2009年2月15日記 website top page |