冷蔵庫の電力消費量と気温の関係について |
我が家の電気冷蔵庫のことについては,この欄で既に3回も記している.1回目は,昨年(2010年)1月に,「賞味期限が切れた我が家の冷蔵庫」(No. 55-2)と題して,25年以上も使っている冷蔵庫であるので買い替えようと決めたことを記した.そして2回目は,6月に,「我が家の冷蔵庫の電力消費量」(No. 60-3)と題して,それまで使っていた冷蔵庫の電力消費量を20日間計測した結果と,新しい冷蔵庫がほぼ決まったことを記した. 新しい冷蔵庫を実際に購入したのは,昨年6月19日のことである.そして1週間後の25日以降,毎日消費量を調べた.この結果を3回目として,「我が家の新しい冷蔵庫(途中経過)」(No.64-1)と題して報告した.昨年の夏は猛暑だったので9月上旬までの消費量は毎日1kWhを越えていたが,中旬になると急激な気温の低下とともに,消費量も下がったことを記した. さて,その後も電力消費量を毎日測り続けていた.そして,この6月下旬,計測以来1年を迎えた.今回はこの結果を記したい. 「ワットチェッカー」と名付けられた簡易測定器の値はいつでも読めるのだが,毎朝6時頃に値を読むこととした.したがって,1日の値とは,前日の朝6時から24時間の消費量である.もっとも,正確に24時間間隔でない時も多く,そのときは24時間当たりの消費量に換算している. また,日曜日はほとんど仙台にいないので,月曜日の朝の値は,土曜と日曜の2日間分の値となる.また,出張や休暇で数日間マンションを空ける時もある.この場合,消費量は不在にしていた期間の合計の値となるが,このときも日平均(24時間)消費量は,不在の期間の平均値としている. では,さっそく1日当たりの消費量の1年の変化を図1に示そう.昨年(2010年)6月25日から,今年6日24日までの365日間の推移である.一目で分かるように,ばらつきを伴いながらも明瞭な季節変化をしている.計測開始から2〜3カ月が高い.ちょうど,猛暑であった6月から9月上旬の期間である. 計測後150日から300日あたり,11月頃から3月ごろまでだが,0.6kWh辺りで変動している.しかしよく見ると,210日付近で,かすかに消費量が増加し,全体として上に凸の形状をしている.さて,これはどういうことだろうか.すぐ答えの思いつく方は,冷蔵庫が何たるかを知っている人.何を大げさに書いているのだろう,答えはあとで. ところで260日ごろの5日間ほど,1.6kWh付近の値を取っているのが目につく.この理由は実ははっきりしている.この5日間とは,3月11日から15日に当たる.そう,3月11日は「東北地方太平洋沖地震」が起こった日であり,15日は私がマンションに帰った日である.その間,地震の揺れのために冷蔵庫の扉が開いていたのであった.私の住んでいる地域は2日程で停電は復旧したのだが,それ以降の3日間,冷蔵庫は扉を開けたまま,庫内の温度を下げようと,懸命に働いていたのであった. さて,この電力消費量の変化に理由を付けたい.夏に使用量が多く,冬に少ないのであるから,気温との関係が思い浮かぶ.既に前回のエッセイに書いていたように,当初から気温と関係があろうと推測していた.そのため,この間,仙台の最高気温を新聞から記録し,最高気温と消費量の関係を毎日図にプロットしていた. 計測中は最高気温と比べていたのであるが,最高気温ではなく,日平均気温を使うべきであろうと思い立った.そこで仙台管区気象台のウェッブサイトで日平均気温を調べてみた.図2に,図1と同じように昨年の6月25日から今年の6月24日までの365日間の日平均気温の変化を示す.夏は27-28℃くらい,冬は0℃くらいが仙台の日平均気温である.日々の変動はあるものの,図1以上に綺麗な季節変化を示している. さて,気温変化には,電力消費量に見られた210日付近の凸の変化は見られない.これは面白いということで,日平均気温と消費量の関係を図にしてみたのが図3である(このような図を散布図と呼ぶ).横軸が日平均気温,縦軸が電力消費量である. 日平均気温が10℃以上では,使用量と気温は綺麗な線形関係(直線状に1対1の関係にあること)である.この関係の意味は単純で,気温が高ければ高いほど,使用量は増加するというもの. ところが,10℃以下では,気温が下がっても消費量は減らず,逆にほんの少し増えていることがうかがえる.特に5℃以下では,そのような関係が明瞭である. どうして気温が低いと消費量が上がるのだろう.でも考えてみると,この関係は当たり前ですね.冷蔵庫は,気温よりも庫内を低めの温度にする装置ではないのである.庫内は野菜の鮮度を長く保てる温度(5℃前後)が保持されるように設定されており,気温が低いときには,逆に庫内をヒーターで暖める.このヒーターに使う電力が加わるため,消費量は増加することになる. さて,これまで気温と消費量の関係を記したが,1年を通した電力消費量はどうだろうか.毎日計測しようと思い立ったのは,この省エネを謳っている冷蔵庫は,本当に省エネになっているのだろうか,という疑問からであった.比較のため,古い冷蔵庫も昨年5月下旬から6月中旬まで,約20日間計測している. カタログに書いているこの冷蔵庫の年間標準電力消費量は,280kWhである.実際計測した年間消費量は285kWhであった.ところで3月11日からの5日間,地震のために消費量が,気温から予想されるよりも1日当たり1kWh程度余計に増加したので,この5日分の5kWhを引けば,ちょうど280kWh となる.何ということでしょう(ビフォア・アフター調),カタログ通りでした.でも,これは出来すぎですね. 私は一人暮らしであり,冷蔵庫の中はガラガラ,土・日は仙台にほとんどいない.冷蔵庫の使用状況は,一般家庭に比べてはるかにおとなしい.そう考えると,カタログの数値は,実際の使用状態では低めに書かれているのではないか. ここで,古い冷蔵庫との比較をしておこう.先にも記したように,古い冷蔵庫を昨年5月下旬から6月中旬の20日間計測した.20日間の平均消費量は1日当たり1.1kWhであった.また,その期間の日平均気温は17℃程度であることもわかった.新しい冷蔵庫は,図3から,日平均気温が17℃のときは,約0.8kWhである.したがって,新しい冷蔵庫は,27%の消費量減となっている.この減少が1年を通して成り立つかどうかは分からないが,成り立つと仮定すれば,年間30%弱の省エネが達成されたことになる. 毎日の計測は,時にはわずらわしいものであったが,気温が低すぎても消費量は増えるなど,当たり前であるのだが面白い結果もでた.年間消費量も確認できた.計測から1年,やったー,との達成感があった.これは研究と全く同じ,いや,私は,「冷蔵庫の電力消費量と気温の関係について」という研究をしていたのですね. 追記: この欄に掲載した図は,研究室のT君に作成してもらった.また,図のウェッブへの掲載にあたっては,S君の手をわずらわせた.記して感謝の意を表する. <図と図の説明> ![]() 図1.1日(24時間)当たりの電力使用量消費量の時系列.2010年6月25日から2011年6月24日までの1年間.260日付近の1.6kWhh付近の高い値は,東北地方太平洋沖地震後の,3月11日から15日までの5日間の値.本文参照. ![]() 図2.仙台市の日平均気温.2010年6月25日から2011年6月24日までの1年間.日平均気温とは,毎日0時から23時までの毎正時の気温の平均値. ![]() 図3.日平均気温(横軸)と毎日の電力消費量(縦軸)の散布図.1.6kWh付近の5つの点は,2011年3月11日から15日の5日間の値.本文参照. 2011年7月15日記 website top page |