4月1日に網膜裂孔 |
4月1日は新しい年度の始まりの日である.日本では,多くの「年度」がこの日に初日を迎える.教育年度(academic year)も,会計年度(fiscal year)もそうである.教育年度としての2012年度は,私にとっては,今までとは違う職務を本務とする特別な年度である. 今年の4月1日は日曜日であった.この4月1日,山形でのことである.朝8時過ぎ,散髪のため,一番乗りを狙って家近くの理髪店に向かった.結果的に二番乗りであったが,3人の理髪師がいる店なので,待つことなくすぐに椅子に座ることができた. 散髪の間はゆったりと,私はたいてい眼をつむっている.それでも途中,理髪師さんからこのくらいの長さで問題ありませんか,と確認を求められるときがある.そのような時は寝ぼけ眼で,いい加減に確認することになる. 今回,まさにその時のことである.眠いながらも眼を開けると,視界の中に,ゴミのようなものが多数浮遊し動いているが見えた.ゴミのようなものの一つは,小さな球形状のもの,ちょうど水中を浮上していく大小の泡,とも表現できるかもしれない.これは至る所に見える.もう一つは,縮れた糸状のもの.たった一つであるが,泡に比べて格段に大きいのでとても気になる. びっくりして何が起こったのだろうと思ったのだが,よくわからない.眼を強く押されたわけでもなく,体を力ませたわけでもない.ともあれ,この症状は一過性のもので,散髪が終わるころには消えているだろうと願った.しかし残念ながら,散髪が終わってもこの状態が続いていた. 理髪店から車で自宅に戻ったのは9時半ごろ.家では鏡を見ながら,左眼を隠して右眼だけで見たり,逆にしたり,左右の眼の見え方を確認していた.その結果,右眼だけでこの症状が出ていることがわかった. 連れ合いに,見え方が突然変になった事情を説明した.すると連れ合いはすぐ,それは「飛蚊症(ひぶんしょう)」と呼ばれる症状であること,症状が進めば網膜が剥がれていくこと,しかも突然一挙に剥がれた場合は最悪失明することがあること,同級生で仕事で同僚でもあったTさんがそんな状態になってレーザー光線で網膜を焼く治療を受けたこと,などを説明した.連れ合いはこの病気,よく知っていたようだ. そして連れ合いは,緊急事態発生とばかりに山形市の休日診療センターに電話した.休日診療所の中に眼科医がいないかを聞いたところ,T病院にいるという.このT病院は,学校共済関係で連れ合いがいつも利用している総合病院である.確認のためT病院に電話したら眼科医の先生が出て,私との間で問診が行われた.病院では瞳孔を開けての検査となるので,車を自分で運転して来るなという.そこで,連れ合いが運転する車で病院に向かった. 10時ごろ病院に着いて,看護婦さんから視力検査,眼圧検査などを受けた.その後,瞳孔を開ける薬を点眼され,女医のO先生の診察となった.強い光を使った眩しい検査である.診察結果はすぐ知らされた.右眼上部の網膜に,かなり大きな「あな(孔)」が出来ているのだそうだ.病名は「網膜裂孔(もうまくれっこう)」である.これが「飛蚊症」の原因だという. 連れ合いが説明したように,網膜裂孔を放っておくと「網膜剥離(もうまくはくり)」に進行することがあり,最悪失明に至るという.O先生はすぐ,レーザー光線を用いて孔の周囲をそれ以上広がらないように焼き固める治療(光凝固治療)を勧めた.私は,失明などはもちろん真っ平御免であるので,すぐお願いすることとした. O先生から治療内容の説明を受け,治療同意書に署名した.連れ合いも署名して,後は治療を待つばかりである.O先生の説明,なかなか良かったですね.網膜裂孔が起こったことと散髪とは何の関係もありません,などと明解に表現してくれました.私も関係あるとは思っていないのですが…. その後瞳孔を開ける薬の点眼をさらに2回,眼に特殊なレンズを付けることから,痛みを取るための麻酔薬の点眼をして,治療に臨んだ.治療は顔が動かないように固定された後,眼に特殊なレンズを装着して,レーザー光線により,孔の周辺を焼き固める作業を行った. このレーザー光線,実際は赤色らしいのだが,私には緑色に見える.あまりに強い光のために,私の脳は色を誤って認識しているのだろう.また,治療前には,レーザー光線が照射されているときは,針で刺されたように痛みがあります,と説明されていた.覚悟して治療に臨んだのだが,私には先の鈍いもので押されたような痛みに感じた.チクリではなく,ズシリという痛みである. さて,この手術,20分程度で終わった.その後,再度,孔の周辺が焼き固められているかの検査をして,11時30分ごろ,治療はすべて終了となった.O先生によれば,治療費は3割負担の保険を適用して約6万円とのことである.これは安いのか,それとも高いのか…. なお,後日連れ合いが病院に支払いに行くと,正しくは約10万円の支払いらしく,持参金では足りずに,病院に据えられたATMで現金を下ろしたとのことである.O先生,治療費については勘違いしたようです. さて,私の当初の4月1日の予定は,散髪の後は生協で1週間分の食料品の買い物,次に本屋で本を物色し,食事をしてから仙台に帰る,そして仙台では,それまで学会出席でほぼ1週間大学を離れていたため処理しきれていない何十通かのメールを研究室で処理する,というものであった. 午後になっても眩しいのが治まらないし,レーザー光線を照射されたので疲労が右眼にきているのだろう,とても見えにくい.そこで車の運転は諦めたのだが,それでも1日のうちには仙台に戻りたいということで,連れ合いの運転する私の車で仙台に戻った.そしてその日は,車の運転を諦めたため,終日マンションで過ごすこととなった. この日は,つくづく自分の年を考えさせられる日であった.網膜裂孔は,硝子体(しょうしたい)が収縮して網膜に孔が開くことよってできる.硝子体の収縮は,加齢とともに起こりやすくなるという.特に近眼の人は起こりやすいようだが,加齢がこれを起こすのですね.そう,今年私は還暦を迎えたのですから…. さてさて,2012年度初日はこんな風に始まった.今年度はいったい,どんな年になるのだろうか. 2012年4月15日記 website top page |