The great teacher inspires |
大学における人材育成に関するあるシンポジウムのことである.企業から参加した講演者の一人が,話の最後に次のようなことを述べた.「ウイリアム・アーサー・ワードは,『平凡な先生は話す.良い先生は説明する.優れた先生はやって見せる.偉大な先生は火をともす』と表現している.大学でも,学生の心に火をともすような教育を大いにやってください」.「先生(教員)」に対するこの表現はなかなかうまいものだ,この格言を作ったワードとはいったいどういう人なのだろう,と興味が湧いたのでインターネットで調べてみた. 英語版Wikipediaには, ウイリアム・アーサー・ワード(William Arthur Ward, 1921-1994)は,米国ルイジアナ州出身で,軍の仕事を終えた後は,メソジスト教会やいくつかの大学で働きながら,コラムニストとして活躍したとある.しかし,何が主な職業か,何で生計を立てているのか,良くわからなかった.最初の説明文に,「アメリカ人の中でもっとも数多く,格言が引用された作家の一人」との紹介が書いてあったので,文筆家なのかもしれない. 先に示した教員に関する文章の英文は次のようなものである. The mediocre teacher tells. The good teacher explains. The superior teacher demonstrates. The great teacher inspires. これに対する日本語訳もいろいろあるようだ.調べているうちに,本学第17代総長の西澤潤一先生が引用していることも知った.私自身は直接確かめていないのだが,西澤先生の著書「教育の目的再考」(岩波書店,1999,29ページ)に書いているのだという.この他にも,西澤先生はこの格言を何度もご自身の著作物に引用しているらしい.ご自身の訳かどうかは分からないが,西澤先生は次のように表現している. 凡庸な教師はただしゃべる. よい教師は説明する. すぐれた教師は自らやってみせる. そして,偉大な教師は心に火をつける. ワードのこの表現,それにしてもうまい.うまい表現だから,こんなにも知れ渡り,残されているのであろうが. 私なりに分析すると,次のようなことではないか.凡庸な教員,良い教員,優れた教員に対しては,言わばその「授業の中」でのことが記述されている.すなわち,学生に対して,「話す」,「説明する」,そして,実際に「やって見せる」と.ところが,偉大な教員に対しては,時間的にも,空間的にも,「授業という枠を越え」て,学生に影響を与える,学生に火をつける,学生に火を灯す,あるいは学生を鼓舞する,と表現する.これは,前の3つの教員のレベルをはるかに超えるもので,「偉大な」教員であることを確かに強烈に印象付ける. さて,ワードの格言は現在も多くのものが知られているようである.そのような中で,比較的数多くウェッブサイトに出てくる格言に次のようなものがあった(出典は次のウェッブサイト:http://becom-net.com/wise/wiriamu.a-sa-.wa-do.shtml). Flatter me, and I may not believe you. Criticize me, and I may not like you. Ignore me, and I may not forgive you. Encourage me, and I will not forget you. お世辞を言われたら,あなたのことは信じない. 批判されれば,嫌いになる. 無視されれば,許さない. 勇気づけてくれれば,忘れない The pessimist complains about the wind. The optimist expects it to change. The realist adjusts the sails. 悲観主義者は風にうらみを言う. 楽観主義者は風が変わるのを待つ. 現実主義者は,帆を動かす. ところで調べてみると,これらの格言は,「イギリスの19世紀の教育哲学者」である「Arther Williams」,あるいは「William George Ward」の作であるとしている日本語(人)のウェッブサイトが,少なからずあった.これは明らかな誤りなのだが,日本ではどうしてそんなふうに広まったのだろう.誰か,これらの格言を日本に紹介した初期の頃に,作者を間違えた人がいるのかもしれない. 2014年3月10日記 website top page |