ジョージ・タケイ氏講演会 |
この(2014年)6月6日(金)の夕方,ジョージ・タケイ(George Takei)氏の講演会を川内北キャンパスで開催した.タケイさんといってもピンとこないかもしれない.では,米国のテレビドラマや映画の「スタートレック」に出演した日系人俳優といったらどうだろう.思い出す方も多いのではなかろうか.役の名前は,「ヒカル・スールー」であるが,日本語吹き替え版では「ミスター・カトー」と呼ばれている. 実は,私自身はこのテレビ番組や映画を見たことはない.それでも,予告編のような番組紹介では何度も見ている.タケイさん演ずるミスター・カトーが,上半身裸で,ちょうどブルース・リーのような格好で出てきたシーンは特に印象に残っている. さて,タケイさんは,米国カリフォルニア州で1937年に日系三世として生まれた.第二次世界大戦が起こると,アーカンソー州の強制収容所へ収容される.そこで3年間を過ごし,戦後,家族とともにロサンゼルスに戻る.その後タケイさんはカリフォルニア州立大学ロサンゼルス校(UCLA)で演劇学を学び,修士号を取る.そして映画出演などを経て,スタートレックに出会う.この作品は大ヒットし,ハリウッドで名声を得た米国でもっとも著名な日系人と言われている. 今回の講演会は,米国札幌総領事館から申し出があったもので,本学ではグローバル人材育成推進事業(TGL)プログラムの一環として行われた.当初は学内限定の講演会にしようと考えていたのだが,タケイさん自らがフェイスブックで講演会のことを紹介したため,学外者からの問い合わせも多く,急遽会場を大きい教室に変えて,こちらでも学外への広報も行うこととした. 講演の題名は,「変革の起こし方 −ハリウッドへの道のり,またその先へ−(Embracing Change: My Journey to Hollywood and Beyond)」と題するものである.約1時間の講演と25分間の質疑応答を行った. タケイさんは2005年に,自分がゲイであることを明らかにし,それまで21年間にわたりパートナーであったブラッド・タケイ氏との結婚を発表した.ブラッドさんは,タケイさんのマネージャーを務めており,今回の日本訪問にも同行し,講演会にも出席した. 講演では,強制収容所での生活など日系米国人として苦労したこと,ボランティアで選挙活動を手伝ったこと,長年ゲイを隠してきたこと,ゲイであることをカミングアウトしたこと,その後性的少数者の権利獲得のために運動を行ったことなどに言及した. この中で,2005年にカミングアウトした理由であるが,同年,同性婚を認める法律がカリフォルニア州の上・下院で可決されたものの,州知事のアーノルド・シュワルツネッガーが拒否権を発動し,法案に署名しなかったのだそうだ.この事態に憤りを感じ,タケイさんはカミングアウトし,そして権利獲得運動を表だって行うことを決意したのだという.「米国では民主主義が機能しており,時には時間がかかるものの,着実に正義(justice)が実現している」と強調していることが印象的であった. この講演は英語で行われ,逐次通訳された.タケイさんは俳優だけあって,素晴らしい声の持ち主であり,多弁ではなく短い言葉で簡潔に,そして時にはユーモアを交えての講演であった.なお,通訳者はNHKの外郭団体グローバルメディアサービスのOさんである.Oさんの通訳も大変素晴らしいものであり,この講演の成功に導いている. 会場には.ほぼ満席となる200名を超える学生や市民の方が詰めかけた.教員,特に外国人教員も多かったし,日本人学生に加え留学生も多数出席した. さて,この講演会開催に当たり,教育を担当する理事として冒頭の挨拶を頼まれた.挨拶は1〜2分の短いものにしてくださいとの依頼であったので,大要以下のようなことを述べた.でも,実際は3分くらいかかったのではなかろうか. 「今から11年前のちょうど今日,2003年6月6日(金)ことだが,米国のワシントンDCで,日本学術振興会(JSPS)主催の‘Science in Japan’フォーラム『Cosmos and Earth』が開催された. その前年に,東京大学の小柴昌俊先生が,ニュートリノ研究でノーベル物理学賞を受賞されたので,『Cosmos and Earth』がテーマとして選ばれたようだ.私も小柴先生とご一緒にフォーラムに参加し,私の専門である海洋学研究の日本の現状を紹介した. さて,次の日,6月7日(土)の夕方のことである.その日は,米国にいる友人とスミソニアン博物館などを見学し,夕方,寿司屋さんに行った.おそらくビルの3階にあるレストランだったろうと思う.席は「通り」の様子がよく見える窓際だった.食事をしていると,少し派手な格好をした男の人たちや女の人たちが,大勢集まってくるのが見えた.とても大勢であり,しばらくすると音楽が流れ,パレードをし始めた. このパレードの意味はすぐ分かった.ゲイやレズビアンの人たち,すなわち,「性的少数者」のデモだったのである.もちろん,2003年当時,既にこのような性的少数者の権利獲得のためのデモが各地で行われていたので,このパレード自体は驚くものではなかった. 驚いたのはパレードの最後の方である.なんと,何台ものポリスカーがサイレンやクラクションを鳴らして通り過ぎていくのである.そして続いて,真っ赤な消防車も何台も通り過ぎていったのである.つまり,これら公共の車も,デモの参加『車』だったのである. これにはさすがにびっくりした.公共の車がデモやパレードに参加するのは,日本ではその当時も,そして現在ですら,とても考えられないことだ.米国はとても進んでいるなー,と感心した出来事だった. さて,本日は,皆さん良くご存知のスタートレックのヒカル・スールー役,日本語吹き替え版ではミスター・カトー役でおなじみの俳優ジョージ・タケイさんが,私たちのために講演をして下さることになった. タケイさんが,これまで歩んで来られた道,先ほどエピソードとして話しした性的少数者としての権利獲得のための活動,その中で味わった苦労などを題材に,私たちに対して信念を持って生きることの大切さを話してくださるものと思っている.私もタケイさんの講演を大変楽しみにしている. 最後にこのような素晴らしい機会を与えて下さった,アメリカ大使館札幌領事館のご配慮に,感謝申し上げたい.」 2014年6月10日記 website top page |