グローバル市民なる視点 |
先月(2014年7月)の25日(金)に,この4月に本学が立ち上げた「高度教養教育・学生支援機構」の発足記念国際シンポジウムを開催した.テーマは「21世紀グローバル世界が求める人間像と教養教育」である. シンポジウムのテーマが示しているように,世界は急速に‘グローバル’化が進んでいることを踏まえ,そのような状況で求められる人材像はどのようなものか,そして人材育成に当たっての教養教育はどのような位置を占めるのか,などを議論するのが目的であった. シンポジウムには多くの方を招待し,基調講演やパネル発表,総合討論を行っていただいた.その中の基調講演者の一人に,前ユネスコ事務局長の松浦浩一郎氏がおられる.松浦さんは外務省で経済協力局長や北米局長,外務審議官,駐仏大使などを歴任されたのち,1999年から2009年まで,ユネスコ事務局長を務められた.初のアジア人事務局長であった.松浦さんによれば,ユネスコには現在190を超える国が加盟しており,職員数は約3000人で,およそ150の国々から出向しているという. 松浦さんには,「21世紀を生きるグローバル市民をどう育成するか−大学教育に期待すること」と題して基調講演していただいた.この中で,松浦さんは,「グローバル市民」,「グローバル人材」,そして「グローバルリーダー」を明確に定義して議論された.とても印象的な講演で,私にとっては目から鱗のような講演であった.松浦さんはレジュメを用いて講演されたのだが,そのレジュメから引用して講演のあらましを述べたい. 松浦さんの講演ではまず,「世界的な規模でグローバル化が急速に進展」(第1章の題名.以下同様)していることを述べる.次に,現在,「日本は歴史的に見て大きな曲がり角に直面−明治維新直後及び第2次世界大戦直後に匹敵」(第2章)していることを強調する.そして,日本全体として整合性のとれた総合的な戦略が必要であると主張する. 第3章以下は,「グローバル市民の定義」(第3章),「グローバル市民の心得 5か条と大学教育の役割」(第4章),そして「グローバル人材に必要な追加的な5か条」(第5章)であった.第3章から第5章までの話を私なりに構成を変えて,表現も簡略にして,その概略を紹介したい. <グローバル市民とは> 自分が所属する国が直面している国際問題はもちろんのこと,国内問題についても国際的な視野を踏まえて考察し,そして行動する人. <グローバル人材とは> 海外の諸国と関係する国内の政府や行政機関,地方公共団体,民間企業,大学や研究所,NGO,さらには国際機関で文化的背景の異なる外国人とも協調的に仕事ができる人. <グローバルリーダーとは> 国際的な展開をしている民間企業,大学や研究所,NGOのトップとして,さらには国際機関の長として文化的背景の異なる外国人を部下として使いつつ国際的に活躍する人. <グローバル市民の心得5か条> (1)高校から大学,さらには生涯を通じた学習による知識の吸収と自分の考えを持つこと(大学教育が重要). (2)日本人として日本の歴史や文化を学ぶこと(外国人との接触では,日本の代表として日本のすべてを知っていることが期待される). (3)常日頃外国の出来事に関心を持ち,異文化に対し理解を深めること. (4)国際問題のみならず国内問題についても国際的視野で分析し,日本史の上だけでなく世界史の上で位置付けて,それらに対し自分の考えを持つこと. (5)他人と議論し,切磋琢磨すること(これも大学教育が鍵) <グローバル人材・リーダーに必要な追加的な心得5か条> (1)英語で外国人とコミュニケートし,議論できること. (2)英語圏でない地域で活動するときはその地域の語学を第二語学として習得すること. (3)大学教育で専門分野を持つこと.最低限修士号,可能な限り博士号を取得すること. (4)大局観と中期的展望を持つこと.要所では決断を下す力があること. (5)グローバル人材が部下を持つようになったとき,あるいはグローバルリーダーになったときは,目標を立てて引っ張っていく指導力を持つこと. 以上が松浦さんの講演のあらましである.なお,簡潔な表現にしたため,松浦さんの意図と異なったものになったとすれば,その責任はもちろん私にある. なお,「グローバル市民」や「グローバルリーダー」は,英語でも「global citizen」や「global leader」という表現があるのだそうだが,「グローバル人材」はないとのこと.「global person」とは言わず,「person with global mind」とでもいうのでしょうかね,と話されていた.このあたりのニュアンスは,残念ながら私にはわからなかった. 私たちもこれまで「グローバル人材」を,「グローバル市民」の概念も入れたものとして使ってきた.しかしながら,世界を股にかけて忙しく走り回る,いわゆる「企業戦士」のような人がグローバル人材であり,そのような人たち(ばかり)を育成したいのか,という誤解を受けてきたことも確かである.今回の松浦さんの話で,もう一つ「グローバル市民」という概念を明確に打ち出してもらったことで,私自身は人材像の整理ができたように思う.これからグローバル市民の用語も積極的に使いたいと思う. 2014年8月10日記 website top page |