阿部さんと伊坂さんの完全合作小説「キャプテンサンダーボルト」 |
今年(2015年)の正月,阿部和重さんと伊坂幸太郎さんの‘完全合作小説’と称する「キャプテンサンダーボルト」(文藝春秋,2014年11月30日,524ページ)を,一気に読んだ.500ページを超える本を一気に読めたのは,もちろん,連続した時間が取れたこともあるのだが,何せそれほど面白かったからである. 著者の阿部さんは私と同じ山形県の出身であることや,伊坂さんは本学出身で現在も仙台に住んでいることなどで,お二人へ親近感を抱いていて,さらに,二人とも独特の世界,‘阿部ワールド’や‘伊坂ワールド’を持っているので,一緒に書いたらどんな小説になっているのだろうかと,わくわくしてこの本を手に取った. 以下の情報はWikipediaによる.阿部和重さんは山形県東根市神町(じんまち)の出身で,1968年生まれの46歳.山形県立楯岡高等学校を中退した後,東京へ出て,日本映画学校を卒業した.その後,演出助手などをしながら,1994年に「アメリカの夜」で作家デビューした. 一方,伊坂幸太郎さんは千葉県松戸市の出身で,1971年生まれの43歳.本学法学部を卒業後,企業でシステムエンジニアとして働きながら小説を書き続け,2000年に「オーデュボンの祈り」で作家デビューした. 親近感を抱いていると書いたのだが,私はお二人の熱心な読者ではない.阿部和重さんの小説ではこれまで「シンセミア」を読んだだけである.この小説,戦後の神町が舞台となって話が展開する.何とも表現が難しいが,人間誰もが持っているドロドロとした部分が表に出てしまう人たちの物語である. 伊坂さんの小説も,これまで「オーデュボンの祈り」と「重力ピエロ」を読んだだけである.「オーデュボンの祈り」では,石巻の沖合にある島に案山子が立っていて,未来を予測する話をするなど,何とも異次元の世界,すなわち,‘伊坂ワールド’が登場する. 伊坂さんの小説すべてが仙台を舞台にしているのかはわからないが,「重力ピエロ」も仙台が舞台であった.この物語は,「春が二階から落ちてきた」で始まり,そして「春が二階から落ちてきた」で終わる. ところで,この小説は映画化され,2009年に公開された.仙台が舞台であるので,映画のロケも仙台で行われ,本学の四キャンパスでも撮影が行われた(末尾の追記参照).寄り道なのだが,その時のエピソードを少し. 青葉山の理学研究科の大講義室もロケ地の一つである.撮影は2008年5月の連休の時であった.この当時,私は部局長であった.ロケに協力してくださいとの大学本部からの依頼があったので,二つ返事でこれを受諾した. 映画撮影はどんなふうにやるのか,とても興味があったので,ロケの日はキャンパス内にいた.この日は二つのシーンを撮った.一つ目は大講義室内での講義の風景である.この場面,実際映画の最初の方に出てくる.大講義室には,エキストラ募集へ応募して当選した本学の学生や教職員で埋まった. 二つ目のシーンは,主役の二人が大講義室から出てくる場面である.まず,主役の二人が大講義室から出て,続いて二つの出口から学生たちが出てくる設定である.主役の二人のすぐ後ろを,横一列になった三人の女子学生が話しながら歩いてくる.私は大講義室の手前の数学棟の入口のところでモニターを見ている監督の後ろに立ってこの撮影を見ていた. 驚いたことに,三人の女子学生を演じる一人が,私の秘書である理学部事務部庶務係のSさんであった.このシーン,三回繰り返して撮影していた.しかしながら,実際の映画ではこのシーンは使われていなかった.残念,Sさん.このケースのように,撮影しても使わないシーンは多々あるのだろう. さて,夕方,撮影が終わったのだろうか,助監督と二人の若者が数学棟のところで話していた.助監督とは撮影の前に挨拶を交わしていたこともあり,近づいていって終わったのですかなどと話しかけた.助監督と二人は私に丁寧にお辞儀を返してくれた.助監督は二人に,私をこのキャンパスの責任者ですよ,などと紹介してくれた.そして私が助監督と話している間に,二人は離れていった. 後で主役の二人の写真をみて気付いたのだが,その時助監督と話していたのは,主演の加瀬亮さんと岡田将生さんだったのである.会ったとき二人をすぐに認識していたら,もっと違う展開になったのに,後の祭りである.寄り道が長くなってしまった.閑話休題. さて,肝心のキャプテンサンダーボルトであるが,小説は何の予備知識なしで読む方が楽しめるに決まっている.そこで,差しさわりのない程度に,ほんの少しだけ紹介を. 舞台は山形と仙台,そして蔵王.小説の95%は,2013年7月15日から17日までの,たった3日間の出来事を書いている.話の鍵は,「蔵王のお釜(五色沼)の水」. ストーリ展開が早いこと,アクション場面もたっぷりであること,第2次世界大戦中の出来事や主人公たちの少年時代のことが伏線になっていること,そして昔の人気子供テレビ番組とそのヒーローも登場すること,などなど,この小説はまさに映画向きである.実際,もう誰かが映画化権を交渉しているかもしれない. この本の帯に「完全合作小説」とあった.阿部さんと伊坂さんが,互いに相手の文章にまで朱を入れたのだという.確かに,この部分は阿部さん,この部分は伊坂さん,というところはまったくなく,文体や話の展開,そして場面ごとの雰囲気も,合作の違和感はまったくなかった. この小説は,今年直木賞を受賞した西加奈子さんの「サラバ!」などともに,2015年「本屋大賞」の候補作に上がっている.本屋で働いている人たちが「一番売りたい本」を選ぶのがこの賞である.第1次投票で10冊がまず選ばれるのだが,キャプテンサンダーボルトはこの10冊の中に入った.第2次投票の締め切りは,3月1日(日)だったという.「本屋大賞」の発表は来月4月の7日(火)とある.さあ,本屋大賞は取れるのだろうか,楽しみである. <追記> 「仙台・宮城フィルムコミッション」のウェッブサイトで,「重力ピエロ」のロケ地などを紹介している.ウェッブサイトのアドレスは以下の通り.なお,ここで紹介したように理学研究科キャンパスでも撮影が行われたのだが,ウェッブサイトの地図上には示されていなかった. アドレス: http://www.sendaimiyagi-fc.jp/support-work/jyuryoku-p/loca-map 2015年3月10日記 website top page |