この国のあり方 -将来の人口は?-
日本の人口を,将来どのようにコントロールすればいいのか,ずっと気になっている.例えば,自然の成り行きに任せるのか,それとも積極的に移民政策により,ある人口へと誘導するのかどうかである.

これは,人口1億人の日本と,人口5千万人の日本とでは,国のあり方(言い換えれば,立国の仕方)が大きく違うと思うからである.国のあり方が違えば,当然大学が育成する人材像が違うだろうし,大学のあり方も大きく変わるであろう.大学の将来像を考えるとき,この人口政策,それは移民政策とほぼ置き換えていいと思うのだが,これが一番のキイになると私は考えている.

最近,文部科学省の幹部の方と話す機会があったが,率直に日本の人口を将来どうしたいのですかと聞いたところ,明快な回答はなかった.現在の政府も,この点に関しては何も情報を発信していないのではなかろうか.

以下,日本の人口が今後どうなっていくのか,公表されている統計資料からみてみる.

総務省統計局の最新データ(文末にURLを記載)によれば,この(2015年)3月1日現在の日本の総人口は,概算値で1億2691万人だそうだ.この人口,1年前に比べて,22万人も減少した.なお,ここで日本の総人口と呼んでいるのは,日本にいる日本人(日本の国籍を持つ人),日本にいる外国人,海外にいる日本人の総和のことである.

毎年10月1日の総人口でみると,最多は平成22年で1億2805万7352人だった.以後毎年20万人から30万人の間で人口減少が続いている.

さて,では将来の人口はどう推移するのだろう.厚生労働省の「国立社会保障・人口問題研究所」は,2012年1月に,「日本の将来推計人口(平成24年1月推計)」を公表した(文末にURLを記載).これは,2010年の国勢調査の確定数が公表されたことを受けて,もっともらしい仮定の下に,将来の日本の人口を推定したものである.

推計結果のポイントとして以下の3つが挙げられている.なお,3つの項目の表題のみ,プレスリリースの資料からそのまま表現する.また,推計の起点は2010年10月1日であり,以下,この人口を当初人口と表現する.

1. 今後わが国では人口減少が進み,平成72年(2060)年の推計人口は8,674万人
この数字は,出生率・死亡率とも中位の推計によっている.年齢別にみると,0歳から14歳までの年少人口は,1,684万人から791万人へと,53%減少する.15歳から64歳までの,いわゆる生産年齢人口は,8,173万人から4,418万人へと,46%減少する.これに対し,65歳以上の老年人口は,2,948万人から3,464万人へと,18%増加する.

2.人口高齢化が進行し,平成72(2060)年の65歳以上人口割合は39.9%
この間,年少人口は当初の13.1%から9.1%へ減少し,生産年齢人口も63.8%から50.9%へ減少し,一方で老年人口は23.0%から39.9%へと増加する.

3.長期仮定,合計特殊出生率は1.35,平均寿命は男性84.19年,女性90.93年
上記推計では,合計特殊出生率(一人の女性が一生の間で出産する子供の数の平均)は,当初の1.39から,2024年1.33を経て,長期的には1.35に収束すると仮定した.また,平均寿命は,当初の男性84.19年,女性86.39年から,表題の平均寿命へ伸長すると仮定した.

以上がプレスリリースされた人口推計の内容であるが,この数字を出す際,海外からの移住者,あるいは海外への移住者についてどのような扱い(仮定)を行っているのか気になった.調べてみると,現状の値がそのまま続くとしていることがわかった.具体的には,差し引き年間6万人の外国人が日本に定住するとの仮定であった.

生産年齢人口がどんどん減り,一方で老年人口が増える中で,日本をどのような形に作るのかは,繰り返しであるが移民政策に大きく依存するだろう.年間6万人の海外からの移民を,今後大幅に増やすような政策誘導で,人口の推移をある程度コントロールできるはずである.

この移民政策をどうするかは,繰り返しであるが,将来の日本のあり方をどうするのかにかかっている.今までのようにモノづくりを進め,GDPで世界の国々と勝負するような立ち位置で行くのか,GDPでの勝負の土俵から去って,少量だが付加価値の高いモノづくりと,安全で歴史と文化を誇る国として,観光などで立国するような立ち位置で行くのか,である.私たちはどちらを選択すべきなのだろうか.

さて,今年(2015年)2月17日の毎日新聞のコラム「ナビゲート」に,作家の奥泉光さんが,「人口半減社会は是か非か?」と題する記事を書いているので紹介したい.

前半部分を要約する.日本の人口減少に歯止めがかからず,85年後の今世紀末には,5000万人まで減少する.人口動態は大きくは変わらないだろうから,この推測はそう間違っていない.大規模な移民受け入れがあるかもしれないが,たぶんあっても来てくれない.

そして奥泉さんは,この人口半減を冷静に,真正面から受け止めて考え,行動する必要があるとして,最後の節を次のように記す.以下にそのまま引用する.

「とにかく何かを考えたり,企画したりするに際して,『八五年後には人口が半分』という事実を念仏のごとく唱え,絶えず念頭に置く必要がある.そうなることを前提に,人々が幸せになる方策を考えなければならない.と,こう思うとき,アベノミクスだ,成長戦略だといった言葉は,じつに虚しい.」

私自身は今後の日本の人口を,移民政策によりある程度コントロールできるのではと考えるのだが,それはさておき,最後の節の奥泉さんの主張には大いに同感するものである.

<参考>
総務省統計局のURL: http://www.stat.go.jp/data/jinsui/
国立社会保障・人口問題研究所のURL: http://www.ipss.go.jp/


2015年4月10日記


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