ダリとシャガールと・・・
このところ,年に1回,4月の終わりから5月の初めの時期に福岡へ出張している.九州大学応用力学研究所の運営委員会に出席するためである.私と同じ研究分野のI先生が所長の時の2007年度以来,共同利用・共同研究拠点である同研究所の運営委員を務めることとなった.この間,I先生,続いてY先生,そして現在のOy先生と,3人の所長さんによる研究所の運営を見てきた.もう委員の中では最古参になり,そのためここ5~6年は議長を仰せつかっている.

さて,今年(2015年)の委員会は5月8日(金)に開催された.例年,朝9時ごろの飛行機で移動すれば,食事をして委員会に十分間にあったのだが,今年はこの時間帯の航空便が無く,仙台空港朝7時35分発の飛行機で行くことになった.この運営委員会には,東北大学から私も含めて3名出席するのであるが,流体科学研究所の所長Ob先生もこの便であった.

運営委員会は13時30分からの開始である.議長として事前の打ち合わせが有るので13時までには行くことになるが,それでも3時間ほど,時間に余裕あった.そのため,カバンの中には,読みかけの小説1冊,読みかけの新書2冊の,計3冊を入れてきた.

本を読んで時間をつぶそうと思ったのだが,福岡空港に降り立ったとき,ふと,美術館にでも行こうか,という気になった.福岡県や福岡市にどのような美術館があるのか,全く知識を持ち合わせていなかったのだが,100%あると思い,空港の総合案内所で聞いてみることとした.

その結果,福岡市美術館が大濠公園内にあることがわかった.この美術館,アクセスも大変便利で,大濠公園駅までは地下鉄で15分ほど,そこから歩いて10分のところだという.これは好都合とばかり,福岡市美術館を訪問することとした.

美術館は大濠公園の池の南東側に位置していた.階段を上ったところに入口がある.常設展の他に,「アンコールワットのみち 神々の彫像」と題する特別展が開催されていたのだが,今回は常設展を見ることとした.入館料は200円である.

複数のテーマの部屋があったが,メインは「近現代美術室」のようだ.常設展と言っても,年に1回テーマを決めて展示しているらしい.今回のテーマは,「踊りだす色と形/イメージを読む」であった.

近現代美術室の入口には,一目でミロ(ジョアン・ミロ:1893-1983)とわかる絵があった.「ゴシック聖堂でオルガン演奏を聴いている踊り子」(1945年)という題の絵である.真ん中のものがオルガンで,最上部に踊り子がいて,となんとはなく思うのだが,よくわからない.ミロの絵を具体的なイメージとして解釈するのが間違っているのかもしれない.

この美術館は地元出身の画家の絵をずいぶん集めているのだろう,かなりの絵が福岡市や周辺の地域の出身の画家たちのものだった.

ずっと進んでいくと,これも一目でシャガール(マルク・シャガール:1987-1985)とわかる絵があった.「空飛ぶアトラージュ」(1945年)と題するもので,アトラージュとは橇のことだという.家々の上を飛ぶ橇が描かれている.橇を引く馬の頭部は,鳥のように見える.北国の,太陽が1日中出ることのない季節の,夜の風景と出来事が描かれているようだ.何とも幻想的である.

さらに1枚,これも一目でダリ(サルバドール・ダリ:1904-1989)とわかる絵があった.「ポルト・リガドの聖母」(1950年)と題するものである.描かれている人物や物体(魚や貝,装飾品など)は極めて精密に,そして精緻に描かれている.そしてその配置や構図は,何とも表現できないが,幾何学的である.

他の絵と違い,この絵は,全面がガラス張りの額装となっていた.そのため,十分顔を近づけて鑑賞しても絵を汚す心配がない.幸い鑑賞している人も少なかったので,思いっきり顔を近づけてみてみた.イヤー,この絵の精緻さ,精密さには驚いた.

この絵に対する福岡美術館の解説がウェッブサイトにあった.この絵の構図についての部分を以下に引用する.

「シュルレアリスムの作家のひとりとして知られるダリは,戦後は運動から遠ざかり,カトリックの教義とヨーロッパの古典絵画への関心を深めました.その一方で,原爆投下に衝撃を受け,原子物理学にも傾倒してゆきました.本作品は,ダリのこうした戦後の新しい展開を考える上で極めて重要な作品です.キリスト教絵画の伝統的な図像を引用しながらも,全体の構図は原子核構造と重なっています.」

なるほど中心にはパンが,子供のお腹(聖櫃?)に収められ,さらに子供は聖母のお腹のところに位置している.そして聖母の周囲には,祭壇が切り分けられて配置されている.このような構造の着想が,原子核構造から得られたというのである.これを読むまで,全くわからなかった.

さて,想いもかけずに立ち寄った美術館で,ダリ,シャガール,ミロなどを見ることができて,幸せな気分になった.記念に絵葉書を購入しようと入口のところにあるミュージアム・ショップに立ち寄った.シャガールとミロの絵葉書はすぐ見つけられたのだが,ダリの絵葉書を見つけられない.そこで,ショップの人に尋ねたところ,ダリの絵ハガキは美術館一の人気で,売り切れたのだという.ところが,今後3年間,印刷の予定がないのだという.というのは,来年秋から,2年ほどかけて美術館を改修するからなのだそうだ.

さて,今度はどこの美術館でどんな絵との出会いがあるのだろう.今月下旬,秋田市に行くことになっている.秋田市でも,このような時間が取れればいいのだが.


2015年5月10日記


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