「門戸開放」の現代的意義とは
この(2015年)11月13日(金),震災後,本学に多額の寄付をしている海外の資源関係の大企業R社の,人事担当副社長B氏と日本支社人事部長のU氏が,本学を表敬訪問した.本学は2011年度から,この企業からの寄付金で学生に給付型の奨学金を出している.この制度は10年間,2020年度まで続くことになっている.

今回の訪問では,総長との懇談とともに,奨学生達と昼食をとりながらの歓談が予定された.奨学生との昼食会に同席した学生支援担当のO先生の話によると,懇談ではB副社長が積極的に奨学生に話しかけ,とても和やかな雰囲気のうちに終了したようである.その後B副社長とU部長は,津波で被害を受けた沿岸部の復興状況を視察に向かったという.

さて,総長への表敬訪問では先方からの要望もあり,Y先生が本学の教育の国際化についてパワーポイント資料を使って説明した.本学の創立以来の理念や,最近進めている国際化・グローバル化教育の紹介である.

一連の紹介の後,B副社長から,本学創立以来の理念の一つである「門戸開放」に触れ,本学が国立(帝国)大学として初めて女子学生を入学させたのは分かったが,今もそれを理念に掲げているということはどういうことなのかとの質問がでた.つまり,「『門戸開放』の現代的意義」は何か,という質問である.

門戸開放は,本学で学びたいと願う人がいるのであれば,もちろん本学が望む学力等の水準に達していることが前提だが,すべての人にその機会を与える,というものである.実際本学は,文科省からのいかがなものかという警告もあったのだが1913年,黒田チカ,丹下ウメ,牧田らくの女子学生3名を,国立大学では初めて入学させた.

また,高等専門学校からの入学も認めた.後に東京大学総長になった茅誠司先生も,1920年に東京工業高校(現東京工業大学)から入学している.さらに,本学は留学生への門戸開放を積極的に進めた.後に中国近代数学の創始者3名の中の2名と数えられる陳建功と蘇歩青は,それぞれ1920年と1924年に本学へ入学している.

さて,「『門戸開放』の現代的意義」は何かという質問である.まずは,人種や民族,国籍を問うことはもちろん,身体や精神,あるいは知的な面で障害を持っている人や,LGBT(レズビアン,ゲイ,バイセクッシャル,トランスジェンダー)等の性的少数者でも誰でも,本学に学ぶ意思のある人を受け入れるということが挙げられる.そしてさらに,受け入れた人たちが快適に学習し,大学生活を送れるという環境づくりをすることではなかろうか.

来年4月からは,いわゆる「障害者差別解消法」が施行される.この中で国立大学は,合理的配慮の不提供の禁止が義務付けられる.身体障害者のためのバリアフリー化などの対応,視覚障害者のための点字ブロックの設置や講義時のノートテーク,聴覚障害者のための手話通訳者の配置や講義の録画,などなど,様々な対応が考えられる.障害者に対する合理的配慮の全貌を示すことは難しいが,今後.事例を積み重ね,運用する中からその内容を豊かにしていかなければならない.

また,宗教に関して言えばイスラム教徒(モスリム)への対応が課題である.食べ物はハラルでなければならないが,本学は川内北キャンパスの食堂ではその対応がしているものの,すべてのキャンパスでできているわけではない.また,お祈りのための場所の提供という課題もある.

LGBT,いわゆる性的少数者への配慮も必要である.13人に1人(約7%強)の人がLGBTであるとの統計があるが,本学では全く配慮されていないのが現状である.LGBTの多くの人たちは,心無い言葉などで傷つくことがあるという.人権保護の観点から,LGBTの人たちがいることに対してきちんと配慮すべきであろう.

本学は現在も「門戸開放」を理念の一つとして謳っているが,門戸開放の現代的意義とは,「本学で学びたいあらゆる人へ,本学で働きたいあらゆる人へ,今はまだ不十分であるところの快適な学習環境や職場環境,そして生活環境を提供することの宣言」なのではなかろうか.


2015年12 月10日記


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