徒然なるままに(2016年3月)
1.「新書大賞」のこと

先月(2016年2月)10日(水)の読売新聞に,「新書大賞2016」に井上章一さんの「京都ぎらい」(朝日新書)が決まったとの記事が掲載された.

この賞は中央公論新社が主催しているもので,今回で9回目になるという.この賞の存在はまったく知らなかったので,新書大賞を受賞した本はどんなものかと興味が湧いたことに,我が連れ合いがここ数年,暇を見つけては京都旅行をしていることも加わり,井上さんのこの刺激的な題名の本を購入し読んでみた.

確かに,この本は面白い.一気に読んでしまった.そして早速,この本を2月の「最近読んだ本から」の1冊(No.140)に加えることにした.

新聞記事にはこの賞の詳細は「中央公論」3月号に掲載されるとあるので,これも購入した.以下,雑誌の記事から得た情報である.

新書大賞は2008年に制定された賞とのこと.有識者,書店員,各社新書編集部,新聞記者のいわゆる新書通の人たちへ,過去1年間(前々年の12月から前年の11月まで)に発行された新書の中から,「読んで面白かった,内容が優れていると感じた,おすすめしたいと思った」5点を挙げてもらい,1位10点,2位7点,3位5点,4位4点,5位3点で総合得点を集計して順位を決めるのだそうだ.

2016年新書大賞を選ぶに当たっては,新書通82人が投票したのだという.雑誌にはベスト20がリストアップされていた.5位までには行った新書は次の物であった.「本の題名」(著者,新書のシリーズ名,得点)の形で記す.

1位:「京都ぎらい」(井上章一,朝日新書,94点),2位:「生きて帰ってきた男」(小熊英二,岩波新書,91点),3位:「イスラーム国の衝撃」(池内恵,文春新書,86点),4位:「多数決を疑う」(坂井豊貴,岩波新書,74点),5位:「下流老人」(藤田孝典,朝日新書,69点).

このうち私が既に読んでいるのは4位の坂井豊貴さんの「多数決を疑う」だけであった.

記事には過去の新書大賞を受賞した新書が表となっていた.2008年:「生物と無生物の間」(福岡伸一,講談社現代新書),2009年:「ルポ 貧困大国アメリカ」(堤未香,岩波新書),2010年:「日本辺境論」(内田樹,新潮新書),2011年:「宇宙は何でできているのか」(村山斉,幻冬舎新書),2012年:「ふしぎなキリスト教」(橋爪大三郎・大澤真幸,講談社現代新書),2013年:「社会を変えるには」(小熊英二,講談社現代新書),2014年:「里山資本主義」(藻谷浩介・NHK広島取材班,角川oneテーマ21),2015年:「地方消滅」(増田寛也編著,中公新書).

この中では,福岡さん,内田さん,村山さん,増田さんの4冊の新書は読んでいた.いずれも確かに読み応えがあった.

ところで,「新書大賞2016」を獲得した井上さんの本の点数は94点である.今年は82名が投票したようなので,一人の持ち点が29点(10+7+5+4+3)で82名の投票だから,総点数は2378点である.94点は総点数の約4%である.この数字,かなり票が割れたことを示しているのではなかろうか.それだけ毎年,多くの新書が発行されていることの証しなのかもしれない.

2.「琴バウアー」のこと

この(2016年)2月17日の朝日新聞のスポーツ欄のコラム「ハーフタイム」に,1月場所で初優勝した琴奨菊の塩をまく前のルーティンである上体を大きく後ろにそらす仕草が,「琴バウアー」と命名されたことが写真入りで紹介された.

前日の16日に,琴奨菊は日本記者クラブで会見を行った.上半身を大きく後ろにそらす仕草は,メディアによって「琴バウアー」とか「菊バウアー」と呼ばれており,琴奨菊自身もどちらの名称がいいのか悩んでいたのだそうだ.会見の最中,琴奨菊が頼んで外国通信社の女性記者に決めてもらったとのことである.

決めてもらった後,琴奨菊は元横綱琴桜から,「琴」には「今に王になる」という意味があると聞いていたので,「意味もよくてこれでいいんじゃないですか」と納得したという.

さて,琴バウアーはイナバウアーから来ているのだが,上半身を「大きく後ろに反らす」のが「イナバウアー」でないことは,私も知っているくらいだから,かなり良く知られていることなのではなかろう.

以下,Wikipediaの「イナバウアー」の項目から引用する.なお,この技を編み出した「イナ・バウアー」については別の項目としてたてられている.

イナバウアーとは,「フィギュアスケートの技で,足を前後に開き,つま先を180度開いて真横に滑る技」であるという.1950年代に活躍した旧西ドイツの女性フィギュアスケート選手,イナ・バウアー(Ina Bauer,1941-2014)が開発したのでその名が冠された.

Wikipediaには滑っているときの写真が何枚か出ていた.もちろん,荒川静香さんの写真も掲載されている.荒川さんは上半身を大きくそらせるイナバウアーを行ったのだが,本人や解説者は,この技を「レイバック・イナバウアー」とか「サーキュラー・イナバウアー」と呼んでいるのだそうだ.

荒川さんはトリノオリンピックで日本人初の金メダルを獲得した.荒川さんの演技の中で印象的なシーンとしてこのイナバウアーがある.あまりにも印象的でよく知れ渡ったため,「日本においては『イナバウアー』とは背中を大きく反らしながら滑る技,または大きく反り返った状態のこと」といった誤解が発生している」とWikipediaは記している.

ということで,「琴バウワー」は,イナバウアーに対する誤解の上に立ったネーミングである.今からでも遅くないので,上半身を大きく後ろに反り返る仕草には,「シズカー」とでも命名したらどうだろうか.したがって,荒川さんの技は「荒川シズカー」であり,琴奨菊のルーティンは「琴シズカー」となる.なかなかいいネーミングだと思うのだが.


2016年3月10日記


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