次世代火山研究者育成プログラムの開校式
先月(2月)11日の土曜日の午後,本学理学研究科合同C棟の2階にある青葉サイエンスホールで,標記開校式が行われた.本年度から始まった文部科学省の事業「次世代火山研究・人材育成総合プロジェクト」の中の一つ,「火山研究人材育成コンソーシアム構築事業」の開校式である.

本事業の採択機関は本学で,大学院理学研究科地球物理学専攻固体地球物理学講座の西村太志教授が,実施責任者となっている.このコンソーシアムには,申請書を提出した段階で,本学の他に,北から北海道大学,山形大学,東京大学,東京工業大学,名古屋大学,京都大学,九州大学の8大学が参加することになっていたが,その後,神戸大学や鹿児島大学が加わり,現在は10大学からなっている.

これまで火山学分野の人材育成のための教育は各大学で独立して行っており,言わば閉じたものであった.そのため,教育内容は狭い範囲に限られざるを得なかった.それを打破するため,多くの大学が参加したコンソーシアムを作ることで,各大学が持っている教育資源を有効に活用し,学生に対し火山に関する総合的で俯瞰的な理解力をつけることを目指している.博士課程教育リーディングプログラムなど多くの教育プログラムが走っているが,火山という一つの学問領域でこのような教育プログラムが出現したことは画期的なことである.この事業の成果を大いに期待したい.

さて,私は採択機関の代表として,開校式冒頭での挨拶を頼まれた.以下にその大要を記す.いつもと同様「だ・である体」で記す.

「次世代火山研究者育成プログラム」の開校式にあたり,火山研究人材育成コンソーシアム代表機関である東北大学を代表して,一言挨拶したい.

すでに2年半前となる2014年9月27日,午前11時52分,長野県と岐阜県にまたがる標高3067メートルの御嶽山が突然噴火した.この火山爆発で,頂上付近にいた登山者,未だ行方不明の方5名を含む63名の方が,尊い命を落とされた.

文部科学省はこのことを踏まえ,『火山災害の軽減に資する火山研究の推進,広く社会で活躍する火山研究人材の裾野を拡大するとともに,火山に関する広範な知識と高度な技能を有する火山研究者となる素養のある人材を育成すること』を目的として,今年度から「次世代火山研究・人材育成総合プロジェクト」を立ち上げた.

この事業は,火山研究の事業と人材育成の事業の大きく二つに分けることができる.本学が代表機関となって行うのは人材育成の事業で,正式名称は『火山研究人材育成コンソーシアム構築事業』である.

この事業では,大学院修士課程学生を中心に,火山学の広範な知識と専門性,研究成果を社会へ還元する力,社会防災的な知識を有する,次世代火山研究者を育成することである.そのため,コンソーシアムに参加する大学の火山学関連の講義や実習を体系化し,国内外の活動的火山におけるフィールド実習,先端的火山研究や,工学・社会科学のセミナーなどを提供し,一定の要件を満たした人には,修了証を授与することになっている.

今回,第1期生として,北海道大学,山形大学,東京大学,東京工業大学,名古屋大学,京都大学,神戸大学,九州大学,鹿児島大学,そして私たち東北大学の,10の大学から,合計36名の皆さんが入校することになった.

皆さんが所属する大学におけるカリキュラムをこなしつつ,さらに本事業で提供される授業科目を学修することは,簡単にできるものではなく,相当の努力をして初めて達成できるものであろう.入校された皆さんは,本事業の趣旨を理解し,これにチャレンジしてくださった.皆さんのその高い志に,心より敬意を表したい.

さて,このプロジェクト全体のリーダーは,東京大学名誉教授の藤井敏嗣先生であるが,先生は常日頃,火山研究者は『40人学級』と話されている.日本における火山研究者は,まさか40人ではないだろうが,とても少ないことを強調されているのだろう.

日本はユーラシア大陸の東側に位置し,沈み込む海洋プレートの上に存在する.日本の東北部は,まさに火山フロントをその内部に抱えている.むしろ,火山があったからこそ,今の日本の地形が出来たとも言えるではなかろうか.

私たちは,活発な火山活動とこれからも共生していかなければならない.共生のためには,火山噴火を科学的に理解し,火山噴火の予知を目指し,そして火山噴火の影響を最小限に抑える防災・減災の対応をとる必要がある.このためには,火山研究に携わる多くの方を必要としている.

この「火山研究人材育成コンソーシアム構築事業」は,まさにこの目的のために構想された.東北大学は,コンソーシアム代表機関として,本事業が成功するよう最大の支援を行うつもりである.

最後に,本日は入校生の皆さんにとって特別の日となることであろう.皆さんが積極的にこのプロジェクトの中で研鑽を積み,ゆくゆくは大学を含む研究機関,国や地方自治体,そして産業界などのそれぞれの場で活躍されることを期待している.入校された36名の皆さんへの期待を申し上げて,私の挨拶としたい.本日は誠におめでとう.」


2017年3月10日記


website top page