川柳に登場した地球温暖化-仲畑万能川柳から-
毎日新聞3面の左下に,仲畑貴志さんが選者の「仲畑流万能川柳」欄がある.毎日秀逸1首を含む18首が掲載される.どの川柳も傑作で,これを読むのが私の毎朝の楽しみ一つとなっている.

この欄,後で味わい直すこともあろうかと思い,当初は使用済みA4版の用紙に貼り付けて残していたのだが,その保管に困り,結局それらを捨てることになった.そこで2015年11月からは,A4版ノートに貼って保存している.もう丸3年経ち,今は3冊目のノートに貼り付けている.

さて,これらの川柳は,時事問題や社会・風俗などを扱ったものが多いが,天気や天候,あるいは気候や地球温暖化に関する川柳も中には含まれる.今回はそのような中から,地球温暖化をテーマにした傑作川柳を紹介したい.作品を【 】で括り,その後ろに作者の住所と柳名,掲載された年月日を記す.

【変化する 平年並みと いう基準】(八尾 立地Z骨炎,2015・11・19)
平年並みとは平年値に近いということであり,平年値とは30年間で平均した値を指す.現在使用している平年値は,1981年から2010年までの30年間の平均値で,10年ごとに更新される.次回の更新は2021年に行われる.地球温暖化が進行している現在,平年値は10年ごとに高温の方へ「変化」していることを述べた川柳で,作者はこの分野に明るい方なのだろう.

【猛暑日が 夏日に格下げ 近いかも】 (茨城 ごちゃっぺ,2017・9・28)
【そのうちに 猛暑日超えて 灼熱日】 (和歌山 屁の河童,2018・8・1)
【30℃が 涼しい思う 時期が来た】(西条 ヒロユキン,2018・8・2)
一作年(2017年)も昨年も,8月中旬までの夏の前半がとても暑かった.長期的に見れば,暑い日の出現頻度が確実に高くなっている.最高気温が30℃の日は,今日は涼しかったですねのご挨拶.現在は,最高気温が25℃から30℃未満を夏日,30℃から35℃未満を真夏日,35℃以上を猛暑日と表現しているが,最近は40℃以上になることも稀ではなくなった.今後の温暖化の進行で,それぞれの用語が,格下げになるのだろうか,それとも,40℃以上を「灼熱日」とでも名付けられるのであろうか.これは,気象庁にとって,喫緊の課題(?!)である.

【何もかも 暑さのせいに してしまう】(大阪 カンクー,2018・8・26)
【最近の 日記は気温の ことばかり】(沼津 クロヤギ,2018・9・6)
【クーラーに 命を託す この猛暑】(西海 うかい,2018・9・6)
昨年(2018年)の東日本(気象庁の用語では,関東・甲信越・中部地方を指す)の7月の気温は,1946年の統計開始以来,もっとも高温であった.月平均で3℃以上も平年より高い地域が関東地方を中心に広がった.この暑さ,確かに毎日の話題の中心となった.メディアでも日射病対策が連日のように流された.数年前の節電の呼びかけはどこへやら,クーラーの使用をためらわないで,との呼びかけもなされた.熱中症は年配者にとっては,生死にかかわる問題である.そして,こうも暑いと,何でもかんでも,暑さのせいにしたくなる.

【そしてまた 夏日真夏日 ゲリラ雨】(千葉 姫野泰之,2017・6・7)
【慈雨が消え 豪雨ばかりの 夏となる】(鳥取 因伯兎,2017・8・2
【ミリよりも センチでどうだ この雨量】(大津 石倉よしを,2018・7・15)
暑さもすごいが,降雨も極端に激しくなることが多くなった.集中豪雨をもたらす「線状降水帯」は,もはや聞きなれた気象用語となった.降れば恵みの雨(慈雨)を通り越して,被害をもたらすゲリラ雨や豪雨となる.その量は,1回の雨で,しばしば数十ミリメートルから数百ミリメートルの量となる.だったら,センチメートルで表したら,とはその通りなのだが,センチメートルにしても,ゼロを一つ消すだけだから,ここは我慢をしてもらいましょう.

【この猛暑 耐えたら1年 無事終わる】(和歌山 和恋路,2017・8・14)
【来年の 夏まで忘れる 温暖化】(東京 緑カレー,2018・11・16)
確かに我々は「喉元過ぎれば熱さを忘れる」のだが,ここは忘れずに,温暖化抑止のために何をできるのかを常に考え,行動したいものだ.

【小さすぎ 見つけてもらえなかった 秋】 (大阪 椿組組長,2016・12・8)
【秋という 季節が確か あったはず】 (鴻巣 ここまろ,2016・12・8)
【この国に 春と秋が あった頃】 (霧島 久野茂樹,2017・10・11)
【春と秋 夏と冬より 短いね】(静岡 関東一,2018・7・8)
【本当に 小さな秋に なっちゃった】(倉敷 中路修平,2018・11・22)
中緯度に存在する日本は明瞭な四季を持っている.しかし,地球温暖化が進行で温帯であった日本は次第に亜熱帯化する傾向にあり,季節も夏と冬に‘二季化’してきている.すなわち,冬から夏,夏から冬への遷移が急速になり,中間の春や秋が短くなっているのである.

【日常が 季語を裏切る 温暖化】 (湯沢 馬鹿駄物,2017・2・28)
季節の進行の変化に伴い,季語も季節とそぐわなくなってきたようだ.

【わからない 天気は みんな温暖化】(長野 欣雀2017・9・26)
人間,何かが起こったときは,‘誰かのせい’,‘何かのせい’にしたくなる.極端な気象も頻発している今日,それは‘地球温暖化のせい’などと言われると,なるほど,地球温暖化だからね,などと妙に納得してしまう.地球温暖化は長期の現象,極端現象は数時間からせいぜい数日の現象.現象発生の‘直接’の因果関係を指摘するのは容易ではないのだが.

【どの辺が 温暖化なの この寒さ?】(栃木 とちじーじ,2018・2・22)
【あの暑さ 耐えた褒美か この寒さ】(四国中央 美酒乱々,2018・2・22)
2017年から2018年にかけての冬,特に12月と2月は平年よりも寒い天候であった.そして2017年は猛暑.寒い冬に暑い夏である.先にも述べたように地球温暖化の時間スケールは長いので,ひと冬の状態で温暖化に疑念を持ってもらっても困るのだが,そう思いたくなる「とちじーじ」さんの心情は理解できる.「美酒乱々」さんのように,心に余裕(?)をもって受けとめてほしいのだが.

【咲き急ぎ 何か不穏な 温暖化】(鴻巣 雷作,2018・6・30)
温暖化に伴い,桜の開花はどんどん早まっている.気象庁のウェブサイトに掲載されている4月1日の開花ラインの1960年代と2000年代の変化を見ると,この40年間で相当程度北上しているのが分かる.1960年代は,三浦半島から紀伊半島にかけての本州太平洋沿岸と四国,九州であったものが,2000年代は,関東,東海,近畿,中国地方まで北上しているのである.開花の早まりは東北地方でも実感できる.

ところで,さらに調べてみると,九州地方などでは温暖化に伴い,開花が遅れるようになっているという(参考文献1と2).桜の開花には,冬季の温度も重要で,ある程度低くならないと逆に‘休眠解除’が遅れ,開花までの時間が長くかかるというのである.既に九州などではこれが起こっているという.将来は,開花の南北差が無くなっていくのかもしれない.

<参考文献>
1.塚原あずみ・林陽生, 2012: 温暖化がサクラの開花期間に及ぼす影響. 地球環境, 17(1), 31-36.
2.松本大, 2017: 近年におけるサクラの開花と冬季の温暖化. 日本生気象学会雑誌, 54(1), 3-11.

【雑草も CO2 吸ってます】(越谷 日埜嘉久,2018・1・8)
そうそう,忘れては困ります,雑草だってちゃんとCO2を吸っているのです.もっとも,枯れるとまた放出するので,正味カーボンフリーですね.だけど,人類みたいに大量に吐き出しているよりはずっとまし.

【温暖化 あおって原発 輸出増】(東大和 百流,2016・2・27)
東日本大震災前は,世界中で地球温暖化対策の切り札は原子力発電だと考えられていた.震災後は急速に原発への再考が起こり,ドイツをはじめとするヨーロッパでは,脱原発が起こった.ところが事故を起こした当の日本では,原発産業が大事とばかりに原発輸出を企てているのはどうなのだろうか.

【最大の 自業自得は 温暖化】(福岡 名誉教授,2018・10・12)
そうなのです,そうとしか言いようがないのです.今,人類は,ここからどうするのかが問われているのです.知恵を出し合わないといけませんね.

今回はここまで.多くのすぐれた川柳が集まったら,また,この欄で紹介することとしたい.


2019年1月10日記


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