日本海事新聞コラム 海洋時論 その7
日本海事新聞のコラム「海洋時論」の第80回と第81回の原稿を紹介する.

1.【海洋時論(80):2018年10月17日掲載】

継続する黒潮の大蛇行

◆継続する大蛇行と今後

黒潮は昨年8月に12年ぶりの大蛇行流路となり,現在もこの状態が続いている.数値モデルを用いた黒潮流路の予測実験からは,ここしばらくはこの大蛇行状態が持続するだろうと予測されている.予測実験は気象庁と海洋研究開発機構(JAMSTEC)とで行われており,今月10日に発表された気象庁の日本近海1カ月海流予報も,同日に発表されたJAMSTECの向こう2カ月間の予報でも,大蛇行流路を取り続けるだろうとしている.

気象庁は,黒潮に限らず海洋に関してさまざまな情報や知識,今後の予測をウェブサイトに掲載している.同庁のホームページの「知識・解説」や「各種データ・資料」の中の「海洋」の項目で,それらを見ることができる.

一方,JAMSTECでは,アプリケーションラボ(APL)が「日本沿海予測可能実験(JCOPE)」を行っており,毎週水曜日にその結果をウェブサイト「黒潮親潮ウォッチ」に掲載している.同サイトでは,さらに黒潮や親潮に関するさまざまな知識や情報を提供している.これらのウェブサイトは上記のキーワードにより,すぐ検索することができる.

◆過去の黒潮大蛇行の歴史

現在は人工衛星による海面高度の資料や水温・塩分の資料,多数展開されているフロートなどの資料から時々刻々黒潮の状態が監視できる.しかし,監視体制が整っていなかった過去の状態に対しては,少ない資料から推測せざるを得ない.黒潮がいつ大蛇行流路を取ったのかは重要な情報であるので,過去にさかのぼって明らかにする努力が行われてきた.

そのような資料を総合すると,1853-1854年にペリーが来航した頃,1875年に初の世界一周海洋観測を行ったチャレンジャー号が来航した頃,また漁師の体験談などから1890年頃にも大蛇行していたと推測されている.

確実に大蛇行の発生と消滅が分かるようになった1900年から数えると,今回のも含め11回の大蛇行が起こっている.持続期間の最長は1934年から1944年までの約10年,最短は1989年から1990年の1年である.

これらの資料から大蛇行の発生には20年周期があると指摘した研究者もいた.しかしながら,1985年以降4回の大蛇行が起こっているが,いずれも持続期間は2年より短く,また発生間隔も前回が14年ぶり,今回が12年ぶりと長くなってきた.どうしてこのような状態になっているのだろうか,研究者を悩ます問題となっている.

◆地球温暖化と大蛇行の関係

それを説明する有力な説が北太平洋上を吹く偏西風の強弱に伴う黒潮流速の変化である.数値モデルを用いて,意図的に強い偏西風を与えたところ,黒潮の流速が強まり,結果として大蛇行が発生しにくくなった.これは,一種の波と解釈できる大蛇行という黒潮流路の形状が,安定して同じ位置にとどまることができず,下流方向へ流されるためであると理解されている.

地球温暖化に伴い,中緯度の冬季偏西風が次第に強化されていると言われている.今後地球温暖化が進行すれば,大蛇行はますます発生しなくなるのであろうか.今後の推移が注目される.

2.【海洋時論(81):2018年12月27日掲載】

国連「クリーン・シー」キャンペーン

◆海洋ごみの縮減に向けた国連の活動

国連環境計画(UNEP)は昨年(2017年)2月に,海洋ごみ,とりわけプラスチックごみ(プラごみ)を削減するためのキャンペーン「クリーン・シー(CleanSeas)」を立ち上げた.2021年までの5年計画で,1回使用すれば廃棄物となるようなプラ製品の削減と,化粧品や洗顔剤などに使われているマイクロビーズと呼ばれる極微小プラ製品の使用を止めることで,海洋汚染を防止することを目的としている.

キャンペーンでは各国政府に,海洋プラごみ削減のための活動の方針と実行計画を作り,その促進に向けた立法措置をとることを要請している.今年6月8日の国際海洋デーまでに,51カ国が参加を表明した.また,民間でもコンピューター会社のデルや自動車会社のボルボなどをはじめとし,多くの企業も協力の意思表示を行った.

◆海洋プラごみが魚の総重量を超える日も

UNEPの報告書によると,2015年の世界のプラ製品生産量は約4億トン,うち36%(1億4000万トン)はパッケージング用(容器や包装)であった.これは建設資材や繊維素材よりも多い量である.このうち,約80%がリサイクルや埋め立てられたと見積もられている.残りは投棄された分で,海洋へは1300万トン流出したと見積もられた.

また,別の資料によると,プラ製品製造のための石油消費量は,2014年は全消費量の6%であったが,2050年には20%に達するのではないかと予測されている.このため,このまま海洋への流出が続けば,魚の総重量を超えるプラごみとなるのではないかと懸念されている.

◆来年の大阪G20サミットに向け対応の加速を

日本の1人当たりの包装用プラ製品消費量は,アメリカに次いで世界2位である.これまでのわが国の取り組みは迅速とは言えなかったが,それでも少しずつ動き始めたようだ.外食チェーン店の中にはプラ製ストローの使用禁止を,衣料チェーン店の中にはプラ製から紙製の袋への転換を宣言しているところもある.また,千葉県一宮町が,わが国では初めてクリーン・シーキャンペーンに参加したこと,京都府亀岡市がプラごみゼロ宣言を行ったことなどが最近報じられた.

海洋プラごみ問題は,来年(2019年)6月に大阪市で開催されるG20サミットの議題の一つとなると言われている.これに向けて環境省は,この10月に「プラスチック資源循環戦略(素案)」をまとめ,同省が設置している中央環境審議会に諮っている.素案によると,国内では海へのプラごみ流出量をゼロとすることを目指すとし,各国に必要な支援を行い,「世界をリードすることで,グローバルな資源制約・廃棄物問題等と海洋プラスチック問題の同時解決に積極的に貢献」するとしている.サミット議長国の立場を活用して,この問題に対するわが国の意気込みを世界に示してほしいものである.


2019年2月10日記


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