SDGsと中学校国語 |
学習指導要領はほぼ10年ごとに改訂されている.直近では,2017(平成29)年3月に新しい学習指導要領(以下,新指導要領)が告示された.これに伴い,今年度小学校の教科書が新しいものに変わり,次年度からは中学校の教科書が変わることになっている. 新指導要領に従って新しく編集された中学校の教科書を見ていると,多くの教科書で,国連が2015年9月の総会で決議した「持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals:以下,SDGsと略記)」を取り上げていることが分かった. この理由は,新指導要領の中で,社会科公民的分野(公民)の中にこれを取り上げるよう指示があるからである.また,SDGsとは明記されていないものの,多くの教科で持続可能社会の実現に向けた学習を促す記載があるためであろう. どのような教科でSDGsが通り上げられているかを調べたところ,次のような結果を得た。教科名の後の括弧内の分数は,分母がその教科の教科書を発行した会社の数を,分子が取り上げた会社の数を示す. 国語(1/4),地理(4/4),地図(教科用図書:1/2),歴史(3/7),公民(6/6),理科(1/5),保健体育(1/4),技術(1/3),家庭(3/3),英語(1/7),道徳(1/6)である. なお,書写(教科用図書:4),数学(7),音楽(2),美術(3)には取り上げられていなかった. 公民の教科書では,当然のことながら発行された6社の教科書すべてに取り上げられている.ただ,その取り上げ方はまちまちで,単にSDGsの目標を表にしただけの教科書もあれば,口絵に見開きで取り上げ,本文でも,私たちの身の回りにある課題とSDGsの関係についてグループ学習活動を促すような扱いをしていた教科書もあった. さて,4社から出ている国語の中で,1社の教科書がこのSDGsを取り上げていた.その取り上げ方に私はびっくりした.というのも,国語の中でSDGsを真正面から取り上げているからである.ここで,その取り扱いの概要を紹介したい.まず,第1学年の教科書の内容である. 内表紙の次に目次があり,さらに次のページからは教科書の内容を説明するコーナーがある.その最初のページに,学びを進める科学や環境などの7つのキーワードが紹介される.そして次の記載がある.「これらのキーワードは,国連の『持続可能な開発目標』(SDGs)と深く関係し,皆さんが未来の世界を変えるための知識と力を獲得することを願って立てられています」.そしてその隣には17の目標を示すロゴマークが印刷されている. 目次を見ると,1年で9つの単元がある中で、1つの単元がSDGsを扱った「総合」の単元であることが分かった.この単元は33ページとかなりの分量である.単元は幾つかの教材からなっており、最初のページにはこの単元の目次が示されていた.そして、学習の目標として,「持続可能な社会の実現に向けて,自分の課題を発見する」とある. 次ページには、「『持続可能な未来』という言葉から,あなたはどのようなイメージをもちますか」から始まる導入の文書が示される.そして国連ビルに照射されたSDGsの17の目標の写真と,17の目標を区分した5つのグループのロゴマークが上下に並べて示されている.この2ページの内容は第2・3学年も同一であった. 続いて、この教科書でどうしてSDGsを取り上げたのか,その考え方を知ることができる部分がある.やや長くなるが,最後の部分を引用する. 「この先,中学校での学習を通して未知の世界と出会うことでしょう.その中には地球規模の課題も含まれます.ここで紹介するSDGsは,二十一世紀を生きる皆さんが共有すべき,持続可能な社会への道しるべであるといえます.キーワードは『持続可能な社会(未来)』です.これからの三年間,二つの他者,つまり同じ現代に生きていながらも,自分とは異なる文化や世界観を持つ他者,そして未来の皆さんの,子供や孫の世代に生きるであろう他者,に思いをはせつつ,持続可能な社会について考えていきます.その学びの過程において『知ること』『なすこと』はもちろんのこと,『ともに生きること』も学びます.そして『人間として生きる』『人間になる』『人間存在を深める』とは何か,という問いとともに歩んでいきます.(段落)それでは,『答えのない問い』とともに探求という名にふさわしい<学びの旅>に出発しましょう.」. 国語のみならず、中学校で学ぶ全て(の教科)に対する問いかけがなされている.生徒たちに対するとても大きな問いかけではなかろうか. 次に幾つかの教材(ひとまとまりの文章)が並ぶ。教材の末尾には,学習課題が示される.また,国語の教科書であるので当然であるが、論理の展開を考えることが重要である,などの説明も挿入されている. 以上,長々と第1学年の内容を紹介したが,第2学年,第3学年の単元も同じような構成で,同じような分量が割かれていた. 第3学年のSDGs関連単元の‘結び’の文章は,第1学年の‘はじめに’の文章と対をなすもので.その最後部分を引用する. 「三年間の学びの軌跡を振り返ると,皆さん自身にはどのような変容がありましたか.1年生の「プロローグ」でお伝えしたように,歴史上の事実を知ったり,数学の原理を学んだりしたことでしょう.また,英語で話しかけたり,ボランティア活動に取り組んだりしたかもしれません.さらに,未知の世界や様々な<他者>との出会いを通じて存在を深めた人もいるでしょう.(段落)<学びの旅>は続いています.これからも<答えのない問い>を大切に歩んでいってください.」 そして,この単元の「最後の『問』」は,「あなたは,未来に何を残したいですか」である. 私はこの教科書会社の現行の教科書を見ていないのだが,SDGsを新たに取り上げたこの新しい教科書の作成の裏には,社内や執筆者間でSDGsをこのような形で取り上げるべきかどうか、激しい議論があったのではなかろうか.ともあれ、このように取り上げたこの会社の判断に敬意を表したい。 私自身は,今回多くの教科と教科書でSDGsが取り上げられたことに,まずは歓迎する。しかしながら,単にロゴマークを掲載し17の目標を示しただけでは意味はほとんどないと思う.そのような課題が,今なぜ提案されなければならなかったのか,現在の世界状況や情勢、また地球環境をとりまく事情や背景を十分に理解することが重要であると思っている.さらにそれに加えて,それらを認識した上で自分の課題とし,自分の日常的な行動に何らかのことが反映されてこそ,学ぶ意義,そして学んだ意義があるのだと思う.新しい教科書を手に取った生徒たちには,ぜひこのような観点でも学び,次代を担う人として羽ばたいてほしいと願っている. 2020年10月10日記 |