「結構です」について |
2020年度第6セメスターで行った「海洋物理学」の授業は,「オンデマンド型オンライン授業」の形で行った.これは前期に授業を行った先生からのアドバイスがあったためである.「リアルタイム型オンライン授業」は,授業時間割の時間での授業になるため,生活のリズムを壊している学生にとっては辛いのだそうだ.さらに,オンデマンド型でも,単に見たり読んだりする資料の掲載だけでなく,音声による解説資料があることが望ましいこと,その場合,一つの音声資料ファイルは,15分程度に区切った方が良い,などのアドバイスを受けた. これらのアドバイスに従って,私はパワーポイントで作成した授業資料をPDF化するとともに,1章につき2~3のパワーポイントの資料にかぶせた音声資料を準備した.さらに毎回,「受講生の皆さんへ」と題する,A4版で1~2枚程度の文章をPDFで掲載した.内容は皆さんを励ましたり,海洋研究の一端を紹介したり,私が出した課題の解説などである. さて,これらの準備であるが,音声資料の作成が実は大変で,相当の時間を割かなければならなかった.15分程度のパワーポイント音声資料であるが,「mp4」ファイルの変換に私のパソコンでは数時間かかるのであった.後に分かったことであるが,これは私のパソコンの能力不足が原因で,この変換をやっている間に他の仕事をやると,処理の時間が長くかかるのであった.それに気づいた後は,ファイル変換をやっている間は,それだけをパソコンにやらせることにした.それでも1時間から2時間はゆうにかかったのであるが. さて,授業では,毎回,簡単な課題を課し,レポートを出してもらうことにした.結局,15回の授業で13回出すことになった.これをメールで私に送付してもらい,その回数と内容から単位認定の評価をすることにしたのである. 送信されてきた課題へのレポートには,受領した旨と,レポートに対する短い文章のコメントを付けて返信した.返信の中で、当初,正しく回答した人には,あなたの回答は大変「結構」ですと表現したのであった. ところが,11月のことである.国語辞典編纂者の飯間浩明さんの本,『つまずきやすい日本語』を読んで驚いた.今の若い人たちの間では,‘結構‘は冷たい感じのする表現なのだそうだ.そこで,急いで「受講生の皆さんへ」の中で,私が使ってきた「結構」の意味を釈明することとした.2020年12月10日の,第10回授業の時に掲載した「受講生の皆さんへ」での追記である.それを以下に示す. 【追記:私のコメントの「結構です」について】 つい最近,飯間浩明さんの『つまずきやすい日本語』(NHK出版,2019年4月30日発行,103ページ)を読みました.その中に「世代間ギャップのサイン」という節(50-52ページ)がありました. 飯間さんは三省堂にお勤めで国語辞典を編集していますが,大学でも授業を持っています.その授業で,学生一人ひとりに出した問題に対し,正しく答えた人に「はい,結構です」と言うことがあるのだそうです.これに対し,多くの学生から「冷たい感じがする」との意見をもらったのだそうです.飯間さんは続けます. 「『結構』ということばを,私は『大変よい』『すばらしい』の意味で使います.(略)ところが,彼ら自身(注:学生の皆さん)は,日常生活の中で,褒める意味で『結構です』を使うことはまずありません.(段落)若い人にとって身近な『結構です』の使い方といえば,話し合いが決裂して『もう結構です』と席を立つとか,しつこいセールスに対して『結構です』と断るとか,そういった強い拒絶を表すときぐらいでしょう.あまりに拒否感が強すぎるので,彼らが断るときには,むしろ『大丈夫です』を使うのが一般的になりました.」 飯間さんは「結構です」の使い方に世代間ギャップがあるのだと指摘します.皆さんも,皆さんのレポートに対する私のコメント「結構です」や「大変結構です」に,そのような違和感や,冷たい感じを持たれたのでしょうか.私の「結構です」は,飯間さんと同じ意味で使っていたのですが・・・.ともあれ,今回この飯間さんの文章に触れ,次回からは「結構です」の言葉遣いはやめにしようと思った次第です.(追記の文章はここまで) さて,受講生の皆さんは,実際にはどういう印象だったのだろう.そのうち誰かに聞いてみたいと思っている. 2021年3月10日記 |