さすがブラタモリ
毎週土曜日の夜に放送されるNHK番組「ブラタモリ」は,私のお気に入りの番組である.放送時間帯で見ることが多いが,それができないときは録画して見ている.‘地学おたく’を自認しているタモリさんだけあって,地形や地質,岩石に対する観察眼は鋭い.さて,11月7日放送のブラタモリは,北海道のサロマ湖を取り上げた.テーマは「“サロマ湖といえばホタテ”なのはなぜ?」である.サロマ湖周辺で水揚げされるホタテは,全国の生産量の8割を占めるという.サロマ湖とその沖合の海域が,ホタテ養殖に適した環境になった地形的・歴史的理由を探索するのがこの番組の目的であった.番組には,地元のゲストお二人が登場した.一人はサロマ湖養殖漁業協同組合研究指導部長のSさん,もう一人はNPO法人オホーツク自然・文化ネットワーク理事のMさんである.

さて,なぜそうなったのかは番組を見ていただくことにして,私は番組の中で「塩分」は出てきても「塩分濃度」が一度も使われなかったことに感心した.塩分は,ホタテは海水に棲む貝であり,サロマ湖は汽水湖であるとする場面で登場した.研究船で湖の真ん中に出て,塩分を計測する場面である.塩分と表現したのはSさんで,続いてナレーションを担当している元SMAPの草g剛さんが,その背景を説明する中で使った.塩分は,Sさんの発言に1回,草gさんのナレーションでは何と5回も使われた.サロマ湖には小さな河川しか注ぎ込んでいないこと,オホーツク海と水が出入りできる水路が東西に2か所あることから,サロマ湖の塩分は33.8から33.9となっている.

次に塩分が登場したのは,サロマ湖とオホーツク海を隔てる砂州を観察している場面である.今度はMさんが案内役となり,ホタテは海水性の貝であるから塩分が重要と説明する場面で1回登場した.以上,この番組では塩分が発言で7回,テロップで3回登場したが,世の中で頻繁に使われる「塩分濃度」は1回も登場しなかった.

これまで何度も書いているように,「塩分」の分は,もともと分け前の分,したがって割合や比率という意味である.塩分の他にも,糖分やアルコール分などと使われている.分はおそらく‘成分の分’との理解で,‘塩という成分の濃度’だから「塩分濃度」なのだと使われているようだ.濃度を付けた使用例は糖分にもあり,すでに‘糖分濃度’もかなりの頻度で出現している.しかし,幸いなことに調べた限りでは‘アルコール分濃度’はまだ使用されていない.

番組を見て,塩分と正しく使われていることを知り,さすがブラタモリと感心した次第である.これはきっと,SさんやMさんがきちんと塩分という用語の使用を指導したからであろう.ところで,番組終了後,「単に『塩分』というのはけしからん,正しく『塩分濃度』を使いなさい」などと,NHKに投書などはなかったでしょうね.

2020年11月20日記