沈み込み帯物理学分野の市來助教らの論文と山本准教授らの論文が共に日本火山学会論文賞を受賞
本専攻の沈み込み帯物理学分野の市來雅啓助教らの論文と,同じく沈み込み帯物理学分野の山本希准教授らの論文が,共に2022年度日本火山学会論文賞を受賞しました.
市來助教らの論文は,地震・噴火予知研究観測センター(沈み込み帯物理学分野)の市來雅啓助教と海田俊輝技術職員,中山貴史技術職員,三浦哲教授,山本希准教授,および東京大学地震研究所の森田裕一名誉教授と上嶋誠教授によって書かれた論文で,吾妻山の下のマグマ溜まりの位置と形態を電磁気学的手法で初めて明らかにした研究です.マグマ溜りからマグマや熱水が上昇する条件について,マグマ溜りの電気抵抗値の信頼区間から議論したことも本論文の新しい視点です.福島県の吾妻山の火山活動が2011年東北地方太平洋沖地震後に活発化したことから,本学でも吾妻山の観測を強化し,特に市來助教を中心に精力的な電磁気学的観測研究が行われてきました.この論文では,市來助教らが現地で行った地磁気地電流観測(MT観測)のデータをもとに吾妻山の下の電気比抵抗構造を求め,その結果,吾妻山の下のマグマ溜まりが顕著な低比抵抗域としてマッピングされました.この研究は,吾妻山の火山活動の理解に基づく災害軽減に大きな役割を果たすものです.
山本准教授らの論文は,草津白根山の主峰である本白根山における2018年の水蒸気爆発をもたらした熱水がどのように上昇してきたのかを明らかにし,地下の熱水系の物質とエネルギー収支を基に議論した研究です.2018年の水蒸気爆発の際には,草津白根山で定常観測を行っている東京工業大学理学院火山流体研究センターに協力して,次世代火山研究プロジェクトの緊急調査として全国の大学による合同臨時観測が行われることになり,本学からは沈み込み帯物理学分野の山本希准教授が参加しました.本論文は,上記の火山流体研究センターの寺田暁彦准教授が第一著者となって,主として傾斜観測データから熱水の上昇経路を明らかにしたものですが,その解釈において山本准教授らが取得した地震観測データが大きな貢献をしました.水蒸気爆発の予測は極めて難しく,まずはその実態の解明が必要であり,本論文は多項目の観測データから水蒸気爆発の発生に至る過程を詳細に明らかにした極めて重要な成果です.
二つの受賞論文は以下のとおりです.
Masahiro Ichiki, Toshiki Kaida, Takashi Nakayama, Satoshi Miura, Mare Yamamoto, Yuichi Morita & Makoto Uyeshima (2021) Magma reservoir beneath Azumayama Volcano, NE Japan, as inferred from a three-dimensional electrical resistivity model explored by means of magnetotelluric method. Earth Planet Space, 73, 150, doi:10.1186/s40623-021-01451-y.
Akihiko Terada, Wataru Kanda, Yasuo Ogawa, Taishi Yamada, Mare Yamamoto, Takahiro Ohkura, Hiroshi Aoyama, Tomoki Tsutsui & Shin'ya Onizawa (2021) The 2018 phreatic eruption at Mt. Motoshirane of Kusatsu-Shirane volcano, Japan: eruption and intrusion of hydrothermal fluid observed by a borehole tiltmeter network. Earth Planet Space, 73, 157, doi:10.1186/s40623-021-01475-4.