Topics 2016.03.06

宇宙プラズマの謎に挑む〜放射線帯の消滅・再形成過程の研究

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図2a.ERG衛星搭載用プラズマ波動受信機の開発風景.

宇宙空間は電離大気であるプラズマで満たされています。宇宙プラズマは非常に希薄であるため、電子やイオン同士の衝突はほぼ無視できる"無衝突(collision-less)"状態にあります。宇宙プラズマ中では、相対論的に高いエネルギーを持つ粒子が生み出されたり、宇宙空間の高エネルギー電子が周期的に惑星の大気に降り込んできてオーロラを発光させるなど、さまざまな現象が生じることが知られています。衝突の無い宇宙プラズマ中でどのようにして粒子がエネルギーを獲得し、また、どのようにして惑星に向かって降り込んでくるのか。これらの現象はプラズマ物理学を基礎として理解することができます。太陽惑星空間系(C領域)では、飛翔体観測・地上観測・理論・シミュレーションといった様々なアプローチで、宇宙プラズマ中で生じる諸現象を研究しています。

 

地球は固有磁場を持つため、絶え間なく吹き付ける太陽風プラズマは磁場の力でせき止められて、地球の周辺には磁気圏が形成されています。磁気圏の内部には地球の大気を起源とする低温プラズマと、太陽風から入り込んだ高温プラズマとが、ある場所では排他的に、ある場所では混じり合って、時間的・空間的に複雑に変化する環境が形づくられています。中でも特徴的な領域が「放射線帯」です。

 

放射線帯は光速の99%を超える相対論的な高エネルギー粒子(電子と陽子)が分布する領域で、静止軌道(地球半径の約6.6倍)よりも内側に存在しています(図1)。放射線帯は1958年に米国が初めて打ち上げた人工衛星エクスプローラー1号によって発見されました。このような高エネルギー粒子がなぜ地球磁気圏に存在しているのか。発見以降、長年にわたって研究が続けられていますが、未解明の点が多く残されています。1990年代以降には、日本の「あけぼの」衛星を始めとする人工衛星観測によって、放射線帯は太陽活動に応じてその空間分布が変化すること、特に磁気嵐と呼ばれる地球周辺の宇宙環境の変動現象時には、放射線帯電子が約1時間という短時間で消滅し、その後数時間から数日間のうちに再び放射線帯を形成するというダイナミックな変動を見せることが明らかとなりました。

 

放射線帯電子の消失過程・加速過程の謎の解明を目的として、日本は2016年度に「ERG(Exploration of energization and Radiation in Geospace)」衛星を打ち上げます。ERG衛星計画は東北大学の故・小野高幸教授を中心に提案されたプロジェクトで、JAXA宇宙科学研究所や名古屋大学をはじめとした国内外の20を超える研究機関と100名以上の研究者が参加して開発が進められています(図2)。ERG衛星は、放射線帯電子が作り出されているその現場を飛翔して、放射線帯の謎を解く鍵とされる「コーラス放射」と高エネルギー電子との相互作用を精密に観測します。

 

コーラス放射は磁気圏赤道域で自然発生する電磁波モードのプラズマ波動です。非常に大きな振幅を持ち、周波数が時間的に変化する特徴を持ちますが、その発生過程自体も未解明です。本研究室ではコーラス放射の発生過程と、発生したコーラス放射によって高エネルギー電子がどのように加速されるかをシミュレーション(計算機実験)によって究明しています(図3)。シミュレーション研究の成果により、コーラス放射に関する研究は大きな進展を見せていますが、ERG衛星での観測結果による実証が待たれています。

 

東北大学はERG衛星計画の立案時から、衛星搭載観測装置の開発ならびに理論・シミュレーション研究のコアメンバーとして参画しています。放射線帯は相対論的電子が生成される領域であると共に、地球の極域上空で明滅するオーロラ現象を引き起こす高エネルギー電子の源でもあります。また、地球放射線帯の変動現象を理解することで、木星や土星、水星など地球と同様に固有磁場を持つ惑星の磁気圏との共通点や、個々の惑星ならではの相違点を明らかにすることができます。ERG衛星によって、惑星環境の理解に繋がる貴重な観測結果が得られると期待しています。


文責 宇宙地球電磁気学分野 熊本篤史

関連リンク 宇宙地球電磁気学分野

関連リンク ERG衛星計画

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図1. 放射線帯の模式図.

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図2b.ERG衛星搭載用プラズマ波動受信機の開発風景.

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図3. 計算機シミューレションにより再現されたコーラス放射の発生過程と相対論的高エネルギー電子の加速過程.

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