Topics 2019.10.17

千島海溝根室沖における複合海底測地観測網の構築

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図1. GNSS-A観測用の海底局設置時の様子.海上の船舶等との距離は音響測距で行う

2017年12月に,政府地震調査研究推進本部は,北海道沖の千島海溝沿いで,今後30年以内にマグニチュード (M) 8.8以上の超巨大地震が発生する確率が最大40%とする見解を発表しました.同地域では北海道東部における津波堆積物調査から,17世紀に1952年十勝沖地震(M8.2)をはるかに超える規模の津波が発生したと推定され,さらに同様の地震が同じ領域で繰り返し発生している可能性が指摘されています.

では,こうした過去に発生した千島海溝における超巨大地震は,どのような特徴を持っていたのでしょうか?例えば2011年東北地方太平洋沖地震 (マグニチュード9.0) では,沈み込む太平洋プレートと陸側プレートの間のプレート境界において大きなすべりが生じました.特に,プレート境界の浅部において50mを大きく超えるような大規模なすべりが生じていたことが,東北大学や海上保安庁のGNSS音響結合方式海底地殻変動観測 (GNSS-A観測)や海底水圧観測によって明らかになっています(トピック記事#6).実は,過去に千島海溝で発生した超巨大地震においても2011年東北地方太平洋沖地震と同様に,プレート境界の浅い部分で大きなすべりが生じていた可能性があることが,北海道大学の研究グループの津波堆積物と津波シミュレーションの結果から示されています(Ioki and Tanioka, EPSL, 2016). しかし現在の千島海溝において,そうしたプレート境界浅部に地震を引き起こすエネルギーとなるひずみの蓄積が生じているかは,陸上のGNSS観測網等からでは,その距離が陸域から遠いため把握が困難です.

こうした背景から,東北大学大学院理学研究科および災害科学国際研究所,ならびに北海道大学大学院理学研究院では共同して,千島海溝根室沖におけるプレート境界のひずみ蓄積状態を把握するための海底測地観測網を2019年7月に構築しました.私たちは新青丸共同利用航海 (KS-19-12) において,根室沖にGNSS-A観測点を3点 (G21, G22, G23, 図1に設置時の海底局の写真を示す),沈み込む太平洋プレートと陸側プレートの間の距離変化を実測するためのADM (Acoustic Distance Measurement,海底間音響測距) 観測点を3点 (N-ADM) 設置しました.図2に今回設置した観測網を示します.図中の破線で囲まれたT, N, Sとあるのは,Ioki and Tanioka (EPSL, 2016) によって推定された17世紀の超巨大地震の断層モデルであり,Sとあるのが,プレート境界浅部における大すべり域を示しています.TとNは,地震時すべりのうち,十勝沖に相当する部分,根室沖に相当する部分をそれぞれ示しています.G22は過去にプレート境界浅部における大すべりが生じたと考えられている部分(S)の直上に設置されています.さらに,十勝沖の領域 (T) の西端では,地震計のアレイ観測 (LTOBSと表記) を行うことで,同領域の地震活動について詳細に調べることを目指しています.今後は特に,今回設置したGNSS-A観測点3点で年1回程度の繰り返し観測を行うことで,根室沖,特にプレート境界浅部におけるひずみ蓄積がどの程度生じているのかを定量的に明らかにし,将来同地域で発生しうる巨大地震の規模やすべり様式について,新しい知見を得たいと考えています.

謝辞:本研究は文部科学省 「災害の軽減に貢献するための地震火山観測研究計画(第2次)」の支援を一部受けています.

(文責 沈み込み帯物理学分野 海域地震研究グループ 太田雄策准教授,木戸元之教授,日野亮太教授,東 龍介助教)

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図2.2019年7月に千島海溝根室沖に設置した海底測地観測点の配置図.赤ひし形がGNSS-A観測点,ピンク色ひし形がADM (海底間音響測距)観測点を示します.オレンジ色ひし形が海底地震計のアレイ観測網 (LTOBS) を示します.図中破線の四角は,17世紀に発生したと考えられている超巨大地震の断層面を示します.黄色三角印は,防災科学技術研究所が展開する日本海溝海底地震津波観測網 (S-net) の観測点を示します.

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