Topics 2022.03.08

北極海は主要なCO2吸収域

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図1 . 単位面積当たりのCO2交換量(1997年1月から2014年12月までの平均値;負値が海洋吸収を示す)

産業革命以後、人間活動によって、CO2が排出されてきました。ただし、排出されたCO2のうち、約3分の1は海が吸収しています。海が吸収してくれているからこそ、大気中のCO2濃度の上昇が、今の程度で抑えられているとも言えます。一方、世界中の海が、一様に、CO2を吸収している訳ではありません。CO2を吸収している海もあれば、逆に放出している海もあります。海のCO2濃度が大気のCO2濃度より低ければ、海は大気からCO2を吸収します。反対に、海のCO2濃度が大気のCO2濃度より高ければ、海は大気へCO2を放出します。特に、風が強いほどCO2の交換量は多くなります。また、海氷が多い場合は海面が覆われてCO2の交換量は少なくなりますし、逆に海氷が少ない場合は海面が大気にさらされCO2の交換量は多くなります。大気と海洋の間のCO2の交換量を正確に見積もることは、地球温暖化予測の不確実性を低減させ、将来予測の精度向上につながります。

 北極海は水温が低いためCO2が溶けやすく、また植物プランクトンがCO2を使って活発に光合成しています。そのため北極海はCO2を吸収すると考えられていました。さらに、近年は、地球温暖化に伴い海氷が減少し、それまで海氷に覆われていた海面が露出するようになり、CO2吸収量が増加した可能性が指摘されました。ところが北極海は観測が困難で観測データが少なく、いつどこでどのくらいのCO2が吸収されているのか、よくわかっていませんでした。

 そこで、「ニューラルネットワーク」という人工知能技術を利用した推定手法を用いて、北極海のCO2吸収量を定量的に見積もりました。衛星観測などによりデータが得られている水温、海氷密接度(海氷が覆っている割合)、クロロフィルa(植物プランクトンの色素)濃度などと、まばらにしか存在しない海のCO2のデータを関連付けて、観測値のない海域のCO2を推定し、大気と海洋の間のCO2交換量に変換するという手法です。

 その結果、北極海における1997年1月以降、毎月のCO2吸収量の分布をマップで示すことに成功しました(図1)。そして、北極海全体で積算した吸収量は、1年あたり180±130 テラグラムカーボン、炭素換算で約1.8億トンであるとわかりました。これは、海全体の吸収量の約10%に相当します。北極海は、全海洋の面積の3%に過ぎないのに、約10%ものCO2を吸収しているのです。北極海が重要なCO2吸収域であることを意味します。一方、1997年以降の北極海全体のCO2吸収量の変化は見出されませんでした。吸収量が増加した海域も減少した海域もあったためです。

 これから北極海の海氷はさらに減り続けると予想されています。海氷減少でCO2を吸収しやすくなる効果と、水温上昇で海が蓄えられるCO2の量が減る効果、どちらの方が大きくなるかはまだわかりません。今後も注意深く監視していくことが重要です。

 

文責 大気海洋変動観測研究センター 安中さやか

Publication

Yasunaka, S., E. Siswanto, A. Olsen, M. Hoppema, E. Watanabe, A. Fransson, M. Chierici, A. Murata, S.K. Lauvset, R. Wanninkhof, T. Takahashi, N. Kosugi, A.M. Omar, S.V. Heuven, J.T. Mathis, Arctic Ocean CO2 uptake: An improved multiyear estimate of the air-sea CO2 flux incorporating chlorophyll a concentrations, Biogeosciences, 15, 1643-1661, 2018.

https://doi.org/10.5194/bg-15-1643-2018

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