Topics 2023.05.10

ソフトバンクの独自基準点データを利活用する産学連携コンソーシアムの設立

地震や火山噴火にともなう地殻変動を高い精度で計測することは,それら現象の理解を進める上できわめて基本的かつ重要な情報です.こうした地殻変動を精密に捉える手段として,全地球測位システム(Global Navigation Satellite System, GNSS)が一般的に用いられています.GNSSは,地球を周回する人工衛星からのマイクロ波を受信し,衛星までの距離を精密に計測することで,信号を受信したアンテナの位置を正確に知ることができます.さらに,この位置の時間変化を調べることで,アンテナを設置している場所の地殻変動の様子を推定することができます.日本では国土地理院が全国約1,300点に電子基準点と呼ばれるGNSS連続観測点が設置され,国家の基準点の一つとして活用されています.また,それらデータの集積と解析を行う中央局とともに,GEONET (GNSS Earth Observation NETwork System) として運用されています.GEONETでは各電子基準点における日々の正確な座標値が解析され,それらにもとづく地殻変動の情報によって,数多くの地震学,火山学の重要な知見が得られてきました.このように,電子基準点およびGEONETは日本という国の形を正確に知るための基準として,きわめて重要な役割を果たしています.

 一方で近年,位置情報サービスの高度化を目的とした民間事業者による独自のGNSS観測網の展開が進んでいます.このうち,ソフトバンク株式会社(以下「ソフトバンク」)では,高精度な測位サービスを提供することを目的として,全国3,300カ所以上に高密度な独自GNSS観測網を展開しています.東北大学大学院理学研究科では,これらソフトバンクの独自基準点により,国土地理院の電子基準点とおおよそ同等の精度で地殻変動を把握できることを初めて定量的に明らかにし,同観測網が大きな地震の震源像の把握や内陸活断層における地震発生の長期評価の高度化などに貢献しうることをこれまでに示してきました.これらの結果は,地震学や火山学のみならず,幅広い地球科学分野へソフトバンクの独自基準点が活用できることを示唆するものであり,国土地理院のGEONETを補完する役割が期待されるとともに,それらの活用の拡大が期待されていました.

 こうした背景を受けて、東北大学大学院理学研究科は,ソフトバンクとALES株式会社の協力の下,2社および国内の12研究機関18部局が参画する「ソフトバンク独自基準点データの宇宙地球科学用途利活用コンソーシアム」を2022年8月に設立しました.同コンソーシアムでは,高密度なGNSS観測網であるソフトバンクの独自基準点から得られるデータを用いて,これまでにない高い時間・空間分解能で地殻変動や水蒸気量,電離圏などの動態を明らかにすることで,地球科学の分野における同社の独自基準点の活用方法を検証することをその目的としています.同コンソーシアムでは現在,ソフトバンクからGNSS観測データの提供を受け,それらを用いたさまざまな地球科学の分野におけるフィジビリティスタディが行われています.今後,多くの研究成果の創出が期待されるとともに,それら研究成果にもとづいた自然災害の高精度予測など,防災・減災への貢献も期待されています.

地震・噴火予知研究観測センター
准教授 太田雄策
研究室ウェブサイト

 SB_Conso_J.pngコンソーシアムの構成図

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