Topics 2016.08.03

地震波異方性トモグラフィーで日本列島下のマントルの動的状態を捉える

 地球物理学専攻の固体地球系領域(A領域)沈み込み帯物理学分野では,大量のP波とS波の走時データを用いた解析から,日本列島下のマントルにおける地震波速度異方性を調べ、マントルの動的状態を明らかにしました。
 
 地震・噴火予知研究観測センターのグローバル地震火山研究グループでは、「地震波トモグラフィー」と呼ばれる手法を使い 、地球内部構造を詳細に調べています。地震や火山噴火といった現象は、地球内部の物質の状態や運動を反映して発生します。従って、これらの現象を根本から理解するためには、まず地球の内部構造を詳細に知る必要があります。様々な場所で発生した多数の地震から放出された地震波を、多数の観測点で観測すると、震源と観測点までの距離が同じでも、場所によって地震波の走時に差が現れます。これを利用すると、地下の岩石の地震波速度が平均的な速度構造よりも速いか遅いかがわかり、目では直接見ることのできない地下構造(地震波速度構造)の3次元画像を得ることができます。この手法が「地震波トモグラフィー」です。ちょうど医療のX線CT(コンピューテッド・トモグラフィー)で、切らずに体の中の画像を得るのと同じ原理です。
 
 さらに走時データが大量に利用可能な場合は、同一地点において、波線が通る方向による地震波速度の違い(=地震波速度異方性)を検出することができます。異方性は、マントルにおける岩石の流動で、鉱物の結晶が特定の方向に配列した状態や、プレートが海嶺で形成された際の、岩石の初期固結状態などを反映して生じると考えられます。従って異方性を検出することができれば、X線CTのような静止画像だけではなく、地球マントルの動的状態を捉えることができるので、近年非常に注目が集まっています (Zhao et al., 2016)。
 
 今回、本研究グループでは、日本列島下のマントルを対象に、地震波速度の異方性トモグラフィー解析を行いました。日本列島は陸側のオホーツクプレート、ユーラシアプレートに向かって、海側から太平洋プレートとフィリピン海プレートが沈み込んでいる、世界的に見ても構造がとても複雑な地域です(図1)。私達は日本全域の1852点の地震観測点において観測された、2528個の近地地震と、1390個の遠地地震によるP波、S波の走時データを利用し、日本列島下のマントルの詳細な地震波速度不均質と、異方性構造を明らかにしました (Liu and Zhao, 2016, JGR)。走時データの数は、近地地震についてはP波が約50万、S波が約22万、遠地地震についてはP波が約51万、S波が約25万個です。
 
 本研究で得られた成果は、以下の通りです。
 
 沈み込むプレート上部のマントルウェッジでは、異方性の高速度の方向が海溝軸に直交しています(図2a)。これはプレートの沈み込みと、そこからの脱水によって引き起こされる、マントルの流れ(コーナーフロー)を反映していると考えられます。

 沈み込む太平洋プレートとフィリピン海プレート内部では、異方性の高速度の方向が海溝軸と平行です (図2b)。これはプレートが海嶺で形成された際の結晶配向や、海溝軸に直交する引張によって生じたプレート内部の亀裂の配向を反映していると考えられます。 

 東北日本下では、沈み込んだ太平洋プレート(スラブ)直下のマントルにおいて、異方性の強度が低下している場所があることが発見されました(図2c)。これはマントル深部からの熱い上昇流によって、本来の結晶配向が擾乱を受けた結果生じたものと、私達は考えています。

参考文献:
Liu, X., D. Zhao (2016) Seismic velocity azimuthal anisotropy of the Japan subduction zone: Constraints from P and S wave traveltimes. J. Geophys. Res. 121, doi:10.1002/2016JB013116.
Zhao, D., S. Yu, X. Liu (2016) Seismic anisotropy tomography: New insight into subduction dynamics. Gondwana Res. 33, 24-43.

(文責 固体地球系領域 沈み込み帯物理学分野 趙大鵬教授・豊国源知助教)


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図1:日本列島周辺に分布するプレートと、活火山(赤三角)の分布。青と赤のコンターはそれぞれ、沈み込む太平洋プレートとフィリピン海プレートの上面深度を表す。

figure2_160803.jpg図2:本研究で得られた東北地方下のマントルのトモグラフィー画像。地震波速度不均質は赤と青の色の分布で表す。また異方性の高速度の方位を黒線の向きで、異方性の強度を黒線の長さで表している。(a) マントルウェッジ、(b) 太平洋プレート内部、(c) 太平洋プレート下のマントル。それぞれの構造断面の位置は右下の図に示す。

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