Topics 2015.09.29

海域における地震・地殻変動観測

 巨大地震の多くは,海の下にあるプレートとプレートの境目で起こります.しかし,プレートの沈み込みに伴って発生する海底下の地震活動や地殻変動は,発生場所から遠い陸上の観測設備からだけでは検知が難しいために,現象の正確な把握・理解が困難でした.こうした観測体制の弱点を補うために,実際に現象の起こっている場所の直上,つまり海底における地震・地殻変動観測技術の開発が進められ,精力的に観測が実施されています.

 陸上での地震観測は古くから行われてきましたが,海底での地震観測は技術的な困難さから,比較的最近になって実用化されました.水深数千メートルの深海底は数百気圧もの高い水圧のかかる過酷な環境のため,計測装置を納める容器の耐圧性能および水密性能の確保が必要です.加えて,海底に設置した機器をどのように回収するかも問題でした.海底地震観測の技術開発は1960年代末に始まり,現在では長期観測の可能なタイプのオフライン (現地に設置,観測後に観測機器を回収し,データを収集) 観測点や,海底ケーブルを利用した常時オンライン (観測点から常にデータセンターに対して観測データが送信) 観測点の拡充が進められています.このように海域での地震観測が可能になったことで,海底下で発生する地震の震源を正確に推定できるようになり,海溝型地震の断層となるプレート境界の深さ分布がより正確にわかるようになりました.さらに海底地震計は自然地震観測だけでなく,人工震源を用いた地震探査にも用いられ,海底下の地震波の伝わる速さの分布を高精度で推定できるようになりました.これにより,地震発生場とそうでない場所との物理的性質の違いについて理解が深まりつつあります.

 東北大学では,地震センサーを圧力センサーに換装することによって,海底圧力観測もおこなっています(図1).海底圧力計では,圧力センサーにかかる水の重さの変化を圧力変化として観測します.たとえば,津波が観測点上を通過する際は海面高度が変化します.こうした観測データを活用して,津波波源の推定,さらにはリアルタイム津波予測の手法開発などが進められています.また,海底地震計では観測されないようなゆっくりすべり地震がプレート境界浅部で発生すると海底面が隆起・沈降する場合があり,圧力変化として観測されます.ですから,海底圧力計は津波観測だけでなく,海底地殻変動の観測ツールとしても用いられています.

一方,海底における水平方向の動きを含めた地殻変動を知ろうと考えた場合,海中では電磁波の減衰が大きく透過できないため,陸上のようにレーザーを用いた三辺測量やGPS衛星からの電波を用いた衛星測位を用いることができません.そこで,海上に浮かべた機器の位置をGPSによる衛星測位でモニターした上で,海上機器と海底に設置したベンチマーク(海底局)との距離を,音波を用いて計測することで,海底のベンチマークの位置を正確に測定する技術 (GPS音響結合方式海底地殻変動観測,GPS/A観測) の開発が進められてきました (図2左).GPS/A観測が地殻変動を把握できる実用的な精度に達したのは1990年代の終わり頃ですが,海底地殻変動観測の重要性が認識されるのにともない,近年,いろいろな海域での観測が進められています.これにより,これまで陸上観測網では捉えられなかった沖合の海底変動を把握できるようになりつつあります.

2011年東北地方太平洋沖地震 (マグニチュード9.0) は,これらの海底観測技術によって観測に成功した世界初の超巨大地震でした.私たちの研究グループでは東北地方太平洋沖地震の前から宮城県沖で海底地殻変動観測を開始しており,従来地震の起こりにくいと考えられていたプレート境界の浅い部分(海溝近く)の観測点において,地震にともなって30メートルを越す大きな地殻変動があったことを明らかにしました.この結果は,巨大地震の発生過程の理解に大きなヒントを与えるものでした (図2右).さらに地震後には,海底地殻変動用のベンチマークを茨城県沖から青森県沖の広い範囲に増設し,観測を継続しています.これによって,大きな地震に引き続いて発生するゆっくりとした地殻変動(余効変動)がどのような場所で発生し,どのように次の地震のためのひずみの再蓄積を開始するのかを明らかにできると期待しています.また,海底地震計を使用した地殻構造探査も実施し,このような超巨大地震やその余効変動がどのような構造的特徴のもとで発生したのかについても,あわせて理解を進めています.

RCPEVE_DMG_Fig1_j.jpg図1

RCPEVE_DMG_Fig2_j.jpg図2

リンク:地震・噴火予知研究観測センター

(文責 沈み込み帯物理学講座 海域地震研究グループ
東 龍介助教,太田雄策准教授,木戸元之准教授,日野亮太教授)

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