Topics 2022.07.12

脈動オーロラの謎を解き明かすLAMPロケットの打上げに成功

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図1. 脈動オーロラに向かって飛翔する観測ロケットLAMP (Justin Hartney氏提供, (C)NASA). 打ち上げ動画はこちら

「れいめい」衛星や「あらせ」衛星の観測などから,数秒から10秒程度で点滅するオーロラ(脈動オーロラ)の成因と,超高エネルギー電子が宇宙から地球に降り込む現象(マイクロバースト)を統一的に説明する理論が提案されています.東北大学,JAXA,名古屋大学,電気通信大学などを中心とする研究グループは,この理論を観測的に実証するため,LAMP (Loss through Auroral Microburst Pulsation) 観測ロケット実験を行いました.LAMPは本研究グループが2015年から米国研究者と議論を重ね,NASAに提案・採択された計画です.日本はオーロラカメラ(AIC) 2台,高エネルギー電子観測器(HEP),そして磁力計(MIM)の4機器からなる観測器パッケージ PARM2 (Pulsating AuRora and Microburst 2)を搭載しています.このうち,東北大学はオーロラカメラ2台を担当しました.

開発されたロケットは,米国アラスカ州ポーカーフラットリサーチレンジの射場に移動し,2022年2月24日から打上げウインドウに入りました.同時に本研究グループメンバーによって,アラスカ北方のベネタイ,フォートユーコンにもオーロラ高速撮像用のカメラ群が展開されました.そして,打上げウインドウ10日目の3月5日2:27:30(アラスカ現地時間)にロケットが打ち上げられました.打上げ決行を決断しても,実際の打上げまでに15分,ロケットがオーロラ上空の最高点に達するまでに約5分,合計約20分がかかります.祈るような時間でしたが,ちょうど活発に変化する脈動オーロラに突入することに成功しました.

初期的な分析からは,ロケット搭載の各観測機器が順調に稼働し,観測データを取得したことが確認されました.搭載された2台のオーロラカメラは,2つの異なる波長と視野で,脈動オーロラの弱い発光を1秒間に10枚の高速撮像に成功しました.このようなロケットからの脈動オーロラ撮像は世界で初めてです.また,超高エネルギー電子や低エネルギー電子,磁場の同時観測も達成しました.さらに,地上の複数点からのオーロラ観測によって,実験時にアラスカの広い範囲で高速に変化する脈動オーロラも捉えられていました.

本実験では理想的な状態での観測に成功しました.今後の詳細な解析によって,脈動オーロラの変調機構と,キラー電子とも呼ばれる100MeVを超える高エネルギー電子の降りこみとの関係が明らかになることが期待されます.また,2023年にはスウェーデンで次世代型三次元大型大気レーダーEISCAT_3Dが稼働を始めます.本研究グループはEISCAT_3Dの視野内に観測ロケットを打ち上げるLAMP-2の検討を進めており,宇宙からの超高エネルギー電子の降り込みが地球の超高層大気,さらには中層大気に及ぼす影響の解明につなげようとしています.

LAMPはNASAゴダード宇宙飛行センターのほか,JAXA,名古屋大学,電気通信大学,東北大学,九州工業大学,ニューハンプシャー大学,ダートマス大学,アイオワ大学,アラスカ大学による国際共同研究チームによって開発,打上げが行われました.また,本研究はJSPS科研費15H05747,16H06286,17K18804,18KK0100,21H04526のほか,村田学術振興財団研究助成制度の助成を受けて行われています.

文責 惑星プラズマ・大気研究センター 坂野井 健 准教授

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プレスリリース

東北大学, 名古屋大学, 電気通信大学, NASA, アラスカ大学1, アラスカ大学2

関連リンク 

LAMPロケット実験プロジェクトホームページ

脈動オーロラプロジェクト

ロケット打ち上げ時の動画 (Aurora Chasers)

小型高機能科学衛星「れいめい」

ジオスペース探査衛星「あらせ」 (ERG)

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図2. LAMPロケットに搭載された日本の機器. 東北大学はオーロラカメラAICを担当しました.

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図3. 打ち上げ場に移動するLAMPロケット (Terry Zapearch氏提供, (C)NASA).

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図4. ポーカーフラットにあるサイエンスオペレーションセンターで撮影した活発なオーロラ

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図5. 2台のオーロラカメラAICで取得された画像の例. 2つの異なる波長と視野で, 脈動オーロラの弱い発光を1秒間に10枚と高速撮像することに成功しました.

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