Topics 2022.01.11

地球物理学専攻合同機械学習勉強会の取り組みと研究例

近年、人工知能は様々な科学研究において利用されるようになってきています。地球物理学においても例外ではなく、この数年で非常に多くの研究成果が学会や論文で報告されています。例えば、地震学の分野においては「情報科学を活用した地震調査研究プロジェクト(通称STAR-Eプロジェクト)」と呼ばれる文部科学省主導のプロジェクトが立ち上がり、本専攻からも複数のメンバーが参画しています。また、専攻内においても、A領域では地震波の検出、地震火山活動に伴う様々な波形の分類、地中の地震動記録に基づく地表の地震動の予測、B領域では衛星・地上からの大気・気象環境場の観測・推定(例えば本専攻トピックス記事#27「深層学習による大気計測手法の提案」)、瞬時的な接地境界層フラックスの推定、C領域では太陽電波バースト同定、といった研究が行われております。このように研究分野を問わず共通の研究のアプローチとして人工知能は幅広く導入されています。

このような背景の下、地球物理学専攻では、領域横断型の取り組みとして、2020年度より専攻合同の機械学習勉強会を行ってきました。1セメスターごとに取り扱う内容を変えながら、教科書の輪読、論文や研究の紹介、外部の方によるセミナー、pythonを用いた実習、また実際の地球物理学で使用される観測データへの適用などを行ってきました。これまでの2年間で学部生から教員までを含む60名程度の幅広い層のメンバーが参加しています。参加者の動機も、研究への利用はもちろん、深層学習がどのようなものか興味がある、あるいはデータサイエンス分野等への就職を考えているなど様々で、昨今の人工知能ブームを反映したようなものとなっています。

以下では勉強会に関連した研究成果の事例として、日本海溝に設置された海底地震津波観測網(S-net)の記録から、畳み込みニューラルネットワーク(CNN)を用いて地震・微動・ノイズの分類を試みた研究例を紹介します(Takahashi et al. 2021)。

近年、世界各地の沈み込み帯を中心に、スロー地震と呼ばれる、通常地震に比べてゆっくりとした断層滑り現象が観測されています。微動はスロー地震の一形態と考えられており南海トラフやカスケディア、日本海溝では想定巨大地震震源域の深部や浅部で観測されています。そのため、微動の時空間的活動の把握は巨大地震震源近傍のプレート境界面の断層のすべりを捉えるという観点からも重要であると考えられています。

微動検出には観測点間の波形の包絡線の類似性に着目したエンベロープ相関法がよく使用されます。しかしその原理として、微動のみならず通常の地震も検出することがあり、最終的には目視でイベントの判断を行う必要があります。この問題に対して、CNNを利用した通常地震・微動・ノイズの判別手法がNakano et al. (2019)により提案され、南海トラフ沿いの海底地震観測記録を用いて有効性が示されました。Takahashi et al. (2021)は、この提案手法を日本海溝での観測記録に合うように再学習し、通常地震・微動・ノイズの判別を試みました。日本海溝では通常地震と微動が狭い領域で混在して発生しており、両者の時空間的な関係性を理解する上で、波形の判別はより重要になってきます。

CNNの入力データには、観測波形の周波数特性の時間変化を画像として表すスペクトログラムを使用しました(図1)。スペクトログラムは、イベントの継続時間や震源の物理的な性質を示す周波数成分を直接的に把握できるため、同規模の通常地震よりも低周波に卓越する信号を持つ微動と、通常地震の周波数特性の特徴の違いを捉えるのに適していると考えられます。

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図1:地震・微動・ノイズのスペクトログラムの例。

岩手県沖の1つの観測点での記録を用いて学習したCNNを学習に使用していないデータに適用した結果、通常地震・微動・ノイズに関してそれぞれ100%、96%、98%の画像を正しく分類することに成功しました。また、CNNの判別確率と震央距離とマグニチュードの関係を調べた結果、微動に関しては震央距離が近いほど判別確率が高くなり、通常地震に関してはマグニチュードが大きいほど、また震央距離が近いほど判別確率が高くなることが分かりました。

最後に連続記録に対して適用した結果、微動が入力時間窓(2分)に入ると微動の判別確率が上がり、窓から外れると下がることが分かりました(図2)。今後は複数の観測点を利用して、このような微動の判定を行うCNNを作成し、日本海溝で発生する微動の常時モニタリングに繋げていきたいと考えています。

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図2:連続記録へのCNNの適用。

本件トピックス記事の内容をまとめた論文:Takahashi, H., Tateiwa, K., Yano, K., & Kano, M. (2021). A convolutional neural network-based classification of local earthquakes and tectonic tremors in Sanriku-oki, Japan, using S-net data. Earth, Planets and Space, 73(1), 1-10.

謝辞:防災科学技術研究所より公開されているS-netの波形データを使用しました.

文責:加納将行(固体地球物理学講座)・堺正太朗(太陽惑星空間物理学講座、惑星プラズマ・大気研究センター)・高橋秀暢(地震・噴火予知観測センター、2020年度博士後期課程卒業)

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